ようやく大地が鎮まった頃、僕はよろよろと立ち上がった。
目の前にあるのはたしかに僕の家のはずなのに、僕の目に映っているのは、まったく知らない世界だった。
なにかが焦げたようなにおい。なまぐさいような、気持ちの悪いにおい。……それから、血のにおい。
まるで
震える足を無理やり動かし、僕は懸命にみんなを探した。
――パパ……ママ、まひるちゃん……どこ?
しばらく探し回ってようやく見つけた僕の家族は、瓦礫の下に埋もれて身動きが取れない状態だった。
――ママ、パパ! まひるちゃん!
いくら呼びかけてもぴくりとも動かない。
――どうして? みんなっ……! 目を開けて。お願いだよ。
声が震える。
おそるおそる、瓦礫の下からわずかに出ているまひるちゃんの小さな手に触れる。
まひるちゃんの手は、いつもと違ってひんやりとしていた。
全身が震えた。
――そんな、嘘だ……。こんなの嘘だ。ねぇ、だれか嘘だと言ってよ。だれか、助けてよ。ねぇ……っ!
「そこにだれかいるのか!?」
必死に声をかけ続けていると、
――いるよ! 僕の家族はここだよ! お願い、まひるちゃんたちを助けて!
「
「急げ!」
――よかった。これでみんな助かる。
ホッとしたのも束の間、まひるちゃんに駆け寄った迷彩服のおじさんは、力なくその場に座り込んだ。
「……ダメだ。この家のひとたちはもう……」
駆けつけたレスキューは、まひるちゃんたちを瓦礫の下から救助したものの、悲しそうに首を横に振った。
袋のようなものに入れられ、運ばれていくまひるちゃんたちを見て、僕は呆然と立ち尽くす。
――どういうこと? どうして、そんな袋にまひるちゃんを入れるの? ねぇ。やめてよ。そんなところに入れたらみんなが苦しがるよ。まひるちゃんは暗いのだめなんだよ。怖がるんだよ。だから、そんな袋入れちゃだめ。早く出して。出してあげてよ。
「家族を助けてやれなくて、ごめんな……」
僕に気付いたおじさんがやってきて、わんわんと泣きじゃくる僕をなだめる。
僕はその手を振り切って、まひるちゃんにすがりついた。
――まひるちゃん! まひるちゃん! なんでよ……? なんで動かないの? みんな、さっきまで元気だったじゃないか。それなのに、なんで……。
「おいこら、落ち着け。……なんだ、おまえも怪我してるじゃないか。ほら、こっちへおいで。手当しよう」
僕はその場に崩れ落ちた。
突然大地を揺らしたそれは、一瞬で僕の大切な家族を、家を、暮らしのすべてを奪った。
僕は、訳が分からなかった。
――ねぇ、どうしてみんな動かないの? どうして僕だけ生きてるの……? だれか、教えて。ねぇ、だれか……っ!
「隊長、その子は」
ふと、だれかの話し声が聞こえた。
「さっき救助した家族の生き残りだろう。怪我をしてるみたいだから、手当を頼む」
「はい」
隊長と呼ばれたそのひとは、新たに現れた男のひとに僕を紹介した。
「よしよし、もう大丈夫だぞ」
顔を上げると、顔を泥だらけにしたおじさんが、優しい顔で僕を見下ろしていた。
「
おじさんは僕を軽々と抱き上げ、優しく頭を撫でてながら歩き出す。
頭がぼーっとするなかで、僕はおじさんに懸命に訴える。
――ねぇ、おじさん。僕なんかより、まひるちゃんを……パパとママを助けて。僕は大丈夫だから、まひるちゃんたちを助けてよ。お願いだよ。諦めないでよ。きっとまだ生きてるから。だから……っ!
おじさんの腕の中で、僕ははちゃめちゃに泣き叫ぶ。
「そうかそうか、怖かったな。もう大丈夫だからな」
おじさんは慌てることなく、僕をなだめながら救護テントへ足を進めた。テントに入ると、お姉さんが僕の傷口を優しく手当してくれた。
「こんなに汚れちゃって可哀想に……怖かったでしょうね。でも、もう大丈夫よ」
おじさんもお姉さんも、みんな優しい声で僕の頭を撫でてくれる。
それがもどかしくて、悲しくて、胸がぎゅっとした。
――僕は大丈夫なのに。みんなのほうが痛いのに……。
そう言いたいのに、声が出ない。今さらになって痛みがひどくなってきた。
――まひるちゃんのことは、僕が守らなくちゃいけなかったのに。パパとママと約束したのに。それなのに僕は、自分だけ助かってしまった。大切な家族を犠牲にして……。