「タケシ先生今度さ、デートしよう。ここのブランドショップに連れて行ってよ」
言いながら左肩をコツンとぶつけてくる。不意打ちで体が、グラリと揺れた。
(いきなり、じゃれついてくるなよ。心の準備が追いつかないじゃないか)
「別にいいけど。なにを買うんだ?」
「タケシ先生に俺が似合う服を、是非とも見繕ってほしくてさ。一度、やってみたかったんだよ。お揃いってヤツ」
覗き込むように俺を見て、嬉しそうに瞳を細めた。
「お揃いって、なんだかなぁ……」
歩の言葉に顔を曇らせると、そうじゃなくってさと大きな声で訂正する。
「お揃いはお揃いでも、見えないお揃いってヤツ。同じブランドの服を着て、並んで歩きたい。パッと見、他の人にはわからないだろうけど、俺らだけがわかってる繋がりっていう感じ」
「……おもしろいことを考えたな。そういうの、キライじゃない」
歩には、どんな服が似合うだろうか。きっと、店にあるもの全部を試してしまうかもしれない。親バカならぬ、恋人バカってヤツかも。
店内でのやり取りを想像しただけで、自然と笑みが浮かんでしまった。そんな俺の左腕を、強引に自分に引き寄せた歩。
「うわっ!?」
胸元に飛び込んだ体を、ぎゅっと抱きしめてくれる。胸の高鳴りを知られたくなくて、慌てて両腕を使い、なんとか抵抗しようとしたけど、全然ビクともしなかった。
「なに、赤い顔しながら抵抗してんだ、タケシ先生」
「ま、まだ片づけが終わってないのに……」
「タケシ先生が俺のことを考えながら畳んでる間に、ベッドの上をキレイに片付けました」
「……なっ!?」
(――なんで歩のことを考えてるってバレてんだよ)
口をパクパクさせてる俺を見て、歩は心底おかしそうに笑う。
「目尻をデレデレ下げて、楽しそうな表情をしていたら、誰でもわかるっちゅーの。大方、俺とのデートシーンでも考えていたんだろうな」
言い終わらない内に抵抗していた両腕を掴み、引き上げるとそのままベッドに押し倒す。
「もう、ぜってー逃がさない」
囁くように言うと、唇を合わせてきた。高台で俺が歩にしたキス――舌を甘噛みされた瞬間、胸の奥がきゅっとしなる。その後におとずれてきた、呼吸を奪う荒いキスに、体がどんどん熱くなっていった。
「はぁ、あっ……んぅ……」
大好きな歩に求められ、普段はあげないような鼻にかかった声を出してる自分。素直になるにはまず、テレをなんとかしなければならないな。
「なぁ……もっと教えてよ、タケシ先生のこと」
「な、にを?」
「他にどんなことをすれば、感じさせることができるのかって」
濡れているであろう唇を、右手人差し指でそっとなぞられる。それだけなのに感じてしまい、ゾクゾクしてしまった。
お返しといわんばかりに、なぞっていた歩の手を掴んで人差し指を口に含み、音をたてて食んでやる。
――簡単には、教えてやらない……。
「ちょっ、その顔すっげぇ反則。かわいすぎるんだけど」
(おまえを感じさせたいから、教えてやるもんか)
「俺のことを感じさせたいなら、自分で探せバカ犬」
歩は挑戦的な俺の言葉に目を細めてから、両手の関節を鳴らした。
「じゃあ遠慮なく探して、感じさせてやるよ!」
ムダにでかい声で宣言し剥ぎ取る勢いで、俺の服を脱がしにかかる。
「おっ、おいこら! 服が破れる破れる! 丁寧に扱えって高いんだぞ、これは!!」
「いいじゃん、そんなの。破れたら買ってあげるって」
「バカ者っ、この服は限定品だ。もう売ってないんだぞ」
洋服を守りながら歩の頭に目がけて、拳を振り下ろした。
「いってー! 俺よりも服のほうが大事なのかよ!」
「どんな物よりも、おまえが一番大事だ!!」
勢いでポロッと本音が漏れる。しまったと思ったら、歩は俺の頭にチョップを仕掛けた。
「ほほぅ。タケシ先生は大事な俺にどーして、こんな扱いをするのでしょうね?」
「そ、それはおまえが俺に対して、雑に扱うから……。その反面教師というか――」
横を向いて必死に言い訳する自分が、情けないことこの上ない。顔の表面、全部が熱いぞ。
「あー……何かタケシ先生の匙加減、未だに読めねぇ。これだから、惹きつけられるんだろうな」
歩は横を向いた俺の耳元で甘く囁くと、優しい手つきで服を脱がしていく。
「電気……消してくれ」
「イヤだね。久しぶりだから全部見たいし、それに――」
正面を向くといつの間にか、服を脱いでる歩の姿が目に留まる。一回り、体が大きくなった気がした。
「感じてるタケシ先生の顔をしっかりと見たいから。忘れないように、頭の中に刻みつけたい」
そんなふうに言われたら、断れるワケがない。
「だったら俺も、おまえの感じてる姿をしっかり見てやる。覚悟しろよ」
俺が知らない、おまえの顔がたくさん見たいから――。
心の中でそう呟いて、歩が知らないであろうキスを、しっとりとお見舞いしてやった。
「んっ……タケシ先、生ぃ……エロすぎ」
「俺のキモチを受け取ってくれ、バカ犬」
薄ら笑いを浮かべた俺に、今度は歩がキスをしてくれる。
特大のアメを投げつつ、時々鞭の応戦をしながら、この日の夜は適度に甘く過ごせた俺たち。それはきっと、未来の俺たちの姿なのかもしれないな。
疲れ果てて眠ってしまった歩の隣で、幸せを噛みしめながら思ってしまった。
「素直になりきれない俺だけど、これからもヨロシクな……」
ポツリと呟いて、歩の肩口に頬をすりりと擦ってみたら、ぎゅっと抱きしめてくれる。
この腕の中にずっといたい、笑っている歩の傍にいたいから――ちょっとずつ素直になろうと、決意した夜だったのに。
翌朝目覚めたら、いきなりヤろうと圧し掛かってきた歩に向かって、力いっぱい拳を振り下ろしてしまった自分。
――いつまで経っても、この恋は甘くはならない模様である。