「酷いかどうかは、俺が見て決める。もしかして誰かと情事を過ごしたあとが、見られたりして?」
ニヤニヤしてる様子が、ひしひしと空気で伝わった。寝室の状態を見たら、きっと驚くだろうな。
歩は力なくグッタリした俺を担いだまま扉を開け、パッと電気を点けた。
「うげっ! なんだよコレ……泥棒にでも入られたのか?」
「……見てわかっただろう。さぁ引き返せ、今すぐに!」
「その前に説明しろって。キレイ好きのタケシ先生がこんなに散らかすなんて、らしくないよ」
突っ込んでほしくないトコ、いつも指摘するなんて。少しは見逃すことを覚えてほしいのに。しかも担がれたままって、なんの拷問なんだか。ただでさえこの状況を見られてハズカシさの極みで、余計頭に血がのぼってしまう。
「らしくなくて当然だろ。はじめておまえの通ってる大学に顔を出すんだし、久しぶりに逢うんだから」
ベッドの上や床に散乱したままの、朝のファッションショーの服。すぐに片付けられなくて、帰ってきてから整理しようと、そのままの状態だった。ただ、散らかしているだけじゃない。その理由を知られて、恥ずかしくないヤツがいるのなら見てみたい。
俺が告げた力ない言葉を聞き、歩はゆっくりと床に下ろしてくれた。そしてわざわざ頭の先から足先まで、俺の姿を見つめる。
「ただ俺に逢うだけなのに、こんなに散らかして、なにやってんだタケシ先生」
「笑ってくれ。なにを着ても変わらないのがわかっているのに、バカみたいに舞いあがってさ。ハハハ……」
「すげぇキマってる。さすが俺の恋人って感じ」
歩の言ってくれた言葉が、じんと胸を疼かせた。それと同時に感じる、頬を染めあげる熱――どうしていいかわからず、瞳が忙しなく動いてしまった。
恥ずかしくなって背中を向けると、後ろからぎゅうっと体を抱きしめられる。
「寝室に入らなかったらタケシ先生のキモチ、全然わからなかった。どうして隠すんだよ? 俺は全部知りたいっていうのにさ。今だってそうやって、かわいいい顔を隠そうとしちゃうし」
「やっ、だって……らしくないトコ、見せたくなくて。まるで俺がおまえに――」
「ん。わかってる、バレバレだし。耳まで赤くなってる」
甘ったるい声で囁いたと思ったら、首筋にキスを落とした。
「くっ、いきなりなにするんだ!?」
「だって、こっち向いてくんないから仕方なく、目の前にあるものにキスをしただけだよ。俺のだって印、つけたいし」
耳元で囁くと、同じところに噛み付くようなキスをした次の瞬間、肌に残るであろうチリッとした痛みが走った。
「こらっ、目立つトコにつけるなって」
「はあぁ? ホントは出てるトコ、全部に付けたいのに、ここだけで終わらせてる俺のキモチを、偉いって褒めてほしいね」
手を離され自由のきく体でテレながら渋々振り向いた俺に、へらっといつもの笑みをくれた歩。
首につけられた痕を撫でさすりながら睨んでやると、しゃがみ込んで床に落ちてる服を手に取り、キレイに畳み始めた。
「手間のかかる大人だよな、困った人すぎる。素直じゃないし、思ってることだって、なかなか言ってくんないし。二言目には、俺のことをバカ犬呼ばわりするクセに」
「なんだよ……」
いつも歩に対して困ったヤツと思ってる俺に、延々と文句を言われようとは――。
「この散らかってる洋服の量とタケシ先生の想いが、見事にリンクしちゃってるなぁんてさ。涙が出そうなくらい、感激させてもらってます」
(く~~っ、しなくていい指摘しやがって!)
突っ込むのもバカらしいので文句を飲み込み、歩の隣に座って無言で服を畳み始める。
ムスッとしたままの俺に、歩はなぜか手にしている洋服を押しつけた。しかも押しつけるというよりも、体に服を当てているみたいな感じ。
「へぇ、なるほどな」
「なにが、なるほどなんだ?」
そこら辺に落ちてる服を数点適当に掴んでは、俺に当てて見比べ続ける歩。
「一緒にいるときからタケシ先生って、お洒落だなぁと思ってたんだけどさ。近くにいるからこそ気がつかないものが、結構あるんだなって考えさせられた」
言ってる意味がわらず首を傾げると、笑いながら洋服のタグを指差した。
「服を畳んでいて気がついたんだ。同じブランドのものがあるんだなぁってさ」
「ああ、そこのデザインが好きなんだよ」
ぽつりと呟いた言葉に、歩は柔らかい笑みを浮かべる。
「こんな小さいことだけど、タケシ先生のことが知ることができて、すっげぇ嬉しい」
「そ、そうか。こんなくだらないことなのに」
言いながら自分自身も歩のことなら、小さいことだって知りたがっていることを実感させられた。こんなに傍にいてなんでも知ってると思っていたのに、お互いまだまだ知らないことだらけだった。