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Love too late:想いを重ねて――2

「酷いかどうかは、俺が見て決める。もしかして誰かと情事を過ごしたあとが、見られたりして?」


 ニヤニヤしてる様子が、ひしひしと空気で伝わった。寝室の状態を見たら、きっと驚くだろうな。


 歩は力なくグッタリした俺を担いだまま扉を開け、パッと電気を点けた。


「うげっ! なんだよコレ……泥棒にでも入られたのか?」

「……見てわかっただろう。さぁ引き返せ、今すぐに!」

「その前に説明しろって。キレイ好きのタケシ先生がこんなに散らかすなんて、らしくないよ」


 突っ込んでほしくないトコ、いつも指摘するなんて。少しは見逃すことを覚えてほしいのに。しかも担がれたままって、なんの拷問なんだか。ただでさえこの状況を見られてハズカシさの極みで、余計頭に血がのぼってしまう。


「らしくなくて当然だろ。はじめておまえの通ってる大学に顔を出すんだし、久しぶりに逢うんだから」


 ベッドの上や床に散乱したままの、朝のファッションショーの服。すぐに片付けられなくて、帰ってきてから整理しようと、そのままの状態だった。ただ、散らかしているだけじゃない。その理由を知られて、恥ずかしくないヤツがいるのなら見てみたい。


 俺が告げた力ない言葉を聞き、歩はゆっくりと床に下ろしてくれた。そしてわざわざ頭の先から足先まで、俺の姿を見つめる。


「ただ俺に逢うだけなのに、こんなに散らかして、なにやってんだタケシ先生」

「笑ってくれ。なにを着ても変わらないのがわかっているのに、バカみたいに舞いあがってさ。ハハハ……」

「すげぇキマってる。さすが俺の恋人って感じ」


 歩の言ってくれた言葉が、じんと胸を疼かせた。それと同時に感じる、頬を染めあげる熱――どうしていいかわからず、瞳が忙しなく動いてしまった。


 恥ずかしくなって背中を向けると、後ろからぎゅうっと体を抱きしめられる。


「寝室に入らなかったらタケシ先生のキモチ、全然わからなかった。どうして隠すんだよ? 俺は全部知りたいっていうのにさ。今だってそうやって、かわいいい顔を隠そうとしちゃうし」

「やっ、だって……らしくないトコ、見せたくなくて。まるで俺がおまえに――」

「ん。わかってる、バレバレだし。耳まで赤くなってる」


 甘ったるい声で囁いたと思ったら、首筋にキスを落とした。


「くっ、いきなりなにするんだ!?」

「だって、こっち向いてくんないから仕方なく、目の前にあるものにキスをしただけだよ。俺のだって印、つけたいし」


 耳元で囁くと、同じところに噛み付くようなキスをした次の瞬間、肌に残るであろうチリッとした痛みが走った。


「こらっ、目立つトコにつけるなって」

「はあぁ? ホントは出てるトコ、全部に付けたいのに、ここだけで終わらせてる俺のキモチを、偉いって褒めてほしいね」


 手を離され自由のきく体でテレながら渋々振り向いた俺に、へらっといつもの笑みをくれた歩。


 首につけられた痕を撫でさすりながら睨んでやると、しゃがみ込んで床に落ちてる服を手に取り、キレイに畳み始めた。


「手間のかかる大人だよな、困った人すぎる。素直じゃないし、思ってることだって、なかなか言ってくんないし。二言目には、俺のことをバカ犬呼ばわりするクセに」

「なんだよ……」


 いつも歩に対して困ったヤツと思ってる俺に、延々と文句を言われようとは――。


「この散らかってる洋服の量とタケシ先生の想いが、見事にリンクしちゃってるなぁんてさ。涙が出そうなくらい、感激させてもらってます」


(く~~っ、しなくていい指摘しやがって!)


 突っ込むのもバカらしいので文句を飲み込み、歩の隣に座って無言で服を畳み始める。


 ムスッとしたままの俺に、歩はなぜか手にしている洋服を押しつけた。しかも押しつけるというよりも、体に服を当てているみたいな感じ。


「へぇ、なるほどな」

「なにが、なるほどなんだ?」


 そこら辺に落ちてる服を数点適当に掴んでは、俺に当てて見比べ続ける歩。


「一緒にいるときからタケシ先生って、お洒落だなぁと思ってたんだけどさ。近くにいるからこそ気がつかないものが、結構あるんだなって考えさせられた」


 言ってる意味がわらず首を傾げると、笑いながら洋服のタグを指差した。


「服を畳んでいて気がついたんだ。同じブランドのものがあるんだなぁってさ」

「ああ、そこのデザインが好きなんだよ」


 ぽつりと呟いた言葉に、歩は柔らかい笑みを浮かべる。


「こんな小さいことだけど、タケシ先生のことが知ることができて、すっげぇ嬉しい」

「そ、そうか。こんなくだらないことなのに」


 言いながら自分自身も歩のことなら、小さいことだって知りたがっていることを実感させられた。こんなに傍にいてなんでも知ってると思っていたのに、お互いまだまだ知らないことだらけだった。

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