遠くで打ち上げられている花火の光が時折、歩の姿に色をつける。華やかな閃光が端正な顔に影をつけて、浮かび上がらせてくれた。
――ずっと、ずっと逢いたかった。手を伸ばせばそこにいる……。
「……歩…っ……好きだ……おまえがすごく、好き……」
今の俺はどんな顔をして、これを言ったのかな。歩の姿を彩る花火の光と同じく、はっきりと見えてしまっているんだろうか。
「すごく好きって、どれくらいなんだよ?」
なぁんて俺が困るであろう言葉を、平気で告げる愛しい恋人。やっと素直なキモチになって告白したというのに、この仕打ちはないだろ!
それでも答えてやろうじゃないかと、眉間にシワを寄せて一生懸命に考えてみる。なにを言ったら、コイツは納得してくれるだろうか。
「悪い悪い、そんなに真剣に考えるなって。ありがとタケシ先生」
両腕の拘束を解いた手で頬を包み込み、優しいキスをしてくれた。
「ちゃんと、キモチが伝わった。すっげぇ嬉しかった、俺ってば愛されてるんだなって」
今度は、泣きボクロに唇を押しつける。くすぐったくて、体をビクつかせてしまった。
「こんなところで、そんな大胆なこと、止めろよ……」
触れられたところが、どんどん熱を持つ――体全部で、歩を求めているみたい。
「俺もタケシ先生のこと、すごく好きだから。わかってると思うけど」
「ああ……」
妙にテレてしまい、視線を横に向けるしかない。いつまで経っても歩の告白は、胸が締めつけられて苦しくなるので、どんな表情をしていいのかわからなくなる。
「傍にいるとさ、なにを考えてるのか、なんとなくだけどわかるんだよ。なのにちょっとだけ距離をとったら、タケシ先生のキモチが暗闇の中にあるみたいで、全然わかんねぇんだよな、情けないことに」
それはきっと俺が、普段から素直になりきれず、きちんとした態度や言葉で、歩に伝えていないせい。
原因がわかれば、さっさと対処をしなければ。病気の治療と同じで、原因を駆除して対応をすれば、元に戻すことができる。だって恋は、病とよく似ているから。
「さっきも言ったけど、悪かったって思う。俺の態度がおまえを不安にさせた要因だ。これからは少しでもその……思っていることを、素直に伝えられたらいいなって」
まずは、謝罪の言葉を伝えることによって、それを呼び水にし、燻っているキモチを全部伝えてやろう。歩の不安をすぐにでも、取り除いてやりたい。
「タケシ先生のキモチ?」
まともに見られない歩の顔を、ちらちら覗き見ていると、ちょっとすねた表情を浮かべていた。
「歩、俺のキモチ、知りたくないのか?」
「知りたいよ、すっげぇ。なのにこっちを見ながら、それを言わないのって、真実味がないなって思ったんだ。教えてくれるのなら、ちゃんと俺の顔を見て言ってよ」
(確かに、打ち明けるなら真摯な態度で臨まねば)
うっと思いながら、視線を正面にいる歩の顔に合わせると、鼻がつきそうな位置に、わざわざスタンバイされてしまう。
「ちっ、近いぞ。おまえ……」
「逃げらないようにするためだって。視線、逸らさないでくれよ」
ハズカシイ……でもやらなきゃダメなんだ。歩と付き合っていくと決めた以上、素直にならなければ、無駄に傷つけてしまう。
ゴクンと唾を飲み込み、ふーっと息を吐く。
緊張しまくりの俺を、さっきしていた肉食獣のような眼差しじゃなく、子どものような無防備な眼差しで、歩は見守ってくれた。
強がってばかりいる俺でも、この瞳に勝てない。自然と素直になってしまうんだ。
「おまえと付き合うことになって、今更なんだけど、実感させられたんだ。幸せすぎて怖いって……」
「――うん」
少し間をおいた返事。こういう大事な話をしているときは、いつものお喋りを封印して、こっちの話を聞きだそうとする、歩の気遣いが無性に嬉しかった。
「こんなかわいげのない俺に、いつか呆れ果てた上に、捨てられるんじゃないかとか、モテるおまえのことだから、他に好きな人ができちゃうんじゃないかとか。傍にいることが、当たり前になっている今だからこそ、余計なことばかり考えてしまったんだ。だって俺は知ってるから……」
――運命の人は、実は2人いるらしい。1人目で人を愛することと失う辛さを知って、2人目で永遠の愛を知る。
「なにを?」
胸の奥からこみ上げてくるものを、ぐっと我慢をしようと、眉間にシワを寄せたら、なだめるように大きな左手で頭を撫でてくれた。手のひらから伝わってくるあたたかさが、愛おしくて切ない。泣き出しそうになるのを堪えてから、しっかりと言葉にする。
「愛しい人を失う辛さを知っているせいで、歩を好きになればなるほど、失ったときの衝撃を考えちゃって、自己防衛本能が勝手に働いてしまうんだ。素直になるのが怖い、だから――っ……」
「だから?」
溢れてくる涙が、言葉を止めてしまった。
絶望的な片想いをしていた、俺の前に突然現れて、包み込むように愛してくれた人。そんな優しいおまえに甘えてばかりいて、本当に駄目すぎる恋人だって思う。