「あの小田桐さんって、コイツのどこが良くて、付き合ってるんですか?」
俺の質問で目の前にいる桃瀬が、一気に不機嫌そうな顔をする。
「コイツ、何気に酷い」
唇を尖らしながら文句を言う桃瀬に、隣にいる小田桐さんがふわりと、柔らかくほほ笑む。
「太郎おまえは、本当に口の訊き方がなっていないよね」
そしてタケシ先生にも、なぜか突っ込まれる。だって、あんなハチャメチャな絵を描くコイツを、今更桃瀬さんとは呼びたくない。
「タケシ先生、だってさコイツ、顔はいいけど、すっげぇ鈍感じゃん。一緒にいて、イライラしないのかなって思ったんだ」
「そうだね。結構鈍感だけど、そこもひっくるめて、全部が好きなんだ」
小田桐さんが瞳を細めながら、すごく嬉しそうに答えると、隣で飲み物を飲んでいた桃瀬が、思いっきりブッと吹き出した。
(おーおー、イケメンが台無しになるくらい、顔を赤くしちゃって!)
「大丈夫? 郁也さん」
「……涼一、盛大に告白しすぎだ。バカ」
口元を拭いながら視線を彷徨わせ、落ち着きのない桃瀬の様子に、タケシ先生もゲラゲラ笑いこけながら言い放った。
「ももちん、超テレちゃって、すっごくかわいいねぇ」
どこがかわいいんだ、タケシ先生のほうがもっとかわいいのに。
「あのさ全部が好きって、下手っくそな絵を描くトコも含めて?」
見るからに、不気味な絵を描くトコなんて正直、俺としては引いてしまうのだけれど。
「う~ん、そうだね。お互いできないところを、補い合えばいいかなと思うんだ。そういう太郎くんは、周防さんのどこがいいのかなぁ?」
(む……この人、結構侮れないかも。なにかを探ろうとしてるのか?)
「その質問に答えるよりも、タケシ先生に俺のどこが好きか、聞いてみたほうがいいんじゃないですかね。みんな、知りたい話題だと思うけどさ」
小田桐さんの質問をタケシ先生にしてみると、さっきの桃瀬みたく眉間にシワを寄せて、途端に不機嫌になった。
「そんなこと知ったって、涼一くんみたいに、おもしろくもなんともないよ」
あちゃー。俺を含めて、みんなが知りたいことなのにさ。
気落ちした俺らを無視して、タケシ先生はビールを一気呑みした。
「まぁまぁ。周防、またビールでいいよな? すみませーん、生一つお願いします!」
意味深に笑いながら、店員さんにビールを注文した桃瀬は、隣にいる小田桐さんになにかを耳打ちした。
いたずらっ子みたいな顔して、目の前でイチャイチャされたとき、注文した食べ物が、タイミングよく運ばれてくる。
(なんでこんなに、野菜の盛り合わせが注文されているんだろ。これって、肉の倍はあるじゃないか?)
正直俺は、野菜関係苦手。肉が食べたくて焼肉屋を指定したのに、これじゃあ野菜を食べに来たみたいだ。
顔をこれでもかと思いっきり引きつらせる俺を無視して、タケシ先生と桃瀬が一生懸命に、野菜だけを焼いてくれた。
(どうして、肉は後回しなんだ?)
「太郎、シイタケが焼けたら、ちゃんと食べなよ。シイタケの中には、レンチナンとβーDグルカンがあってね。レンチナンは癌細胞の増殖を抑える効果があるし、βーDグルカンは、免疫力を高めるんだよ」
さすがはタケシ先生、なんでも知ってるって感じだな。
「周防が勧めたのと一緒に、こっちのピーマンも食っておけ。色物野菜は、ビタミンが豊富に含まれてるんだからな」
――桃瀬のヤツ、もしかしてタケシ先生と競ってるのか?