何だろ、この裏切られた感は。チャラ男の太郎を好きになったツケが、これなのか!?
せっかく――。
「桃瀬以外の人を好きになったというのに、落ち込むばかりの真実を突きつけられるのって、酷すぎやしないか?」
あまりの悔しさに、ぎゅっとスマホを握りしめたら、バイブがメッセージの返信を知らせてくれた。
『実はお前のメール、涼一にも転送していて、意見を聞いていたんだ。なので涼一の文章、そのまま送るな。
周防さん、二股をかけられてたことは、過去の出来事として捉えてください。大切なのは、太郎くんの気持ちです。彼は今、誰が好きなんでしょうか? そこにたどり着くまでの、プロセスを思い出してください。
この文章を読んで、俺も考えた。命を賭けて、お前に迫った太郎だ。きっと、いい加減な気持ちじゃなかったはずだ。そんなヤツだから、お前も好きになったんじゃないのか?』
「桃瀬……涼一くん、ありがと――」
ふたりからの心に沁みる、あたたかい応援メッセージに、胸がじんと熱くなった。まるで、たくさんの勇気を貰ったみたい。
そして二股をかけられたショックで、すっかり忘れていた。太郎は最期の恋を、俺としたいって言ってたことを。
そのとき、左肩に優しく手が置かれる感触がして、顔だけで振り向くと、そこに太郎が立っているではないか。
俺と目が合うと、腕を掴んで引っ張るように、病室へと連れ戻された。
「本当は病気が治ってから、逢いに行こうと思ってた。タケシ先生の本心を聞くために」
掴んでる腕を使って自分の体に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめてくれる。久しぶりの太郎のぬくもりに、不安だった心が簡単に落ち着いていくのがわかった。
「――俺の本心?」
「ああ。俺の病気を治すのに、あんなこと言ったんだろ? きっと、無理をさせたんだろうなって思ったんだ」
「……無理なんか、してない――」
太郎の体に、そっと両腕を回す。
「おまえの本当の名前を知ったとき、俺は思ったんだ。コイツと歩むために、出逢ったのかなって」
「なんだよ、それ。タケシ先生に名前を呼ばれると、なんだか落ち着かない」
照れくさそうにしてる恋人の顔を見るために、ゆっくりと首を動かし、ほほ笑みながらじっと見つめて、ボサボサしてる頭をぐちゃぐちゃと撫でてやった。
「歩……俺は、おまえが好きだよ。最期の恋じゃなくて、俺との最後の恋にしてくれないか?」
「ヤベェ。そんな言葉、タケシ先生の口から直接聞けるなんて、夢を見てるみたいだ」
「夢じゃない、現実だ。バカ犬っ」
撫でてた手を頬に添えて、そっと口づけをしてやる。桃瀬と涼一くんのお蔭で、素直に自分の気持ちを伝えることができた。
「早く病気を治して、俺のところに戻って来い。首を長くして、ずっと待っていてやるから」
「わかった、約束する! タケシ先生を最後の恋人にするために俺、絶対に頑張るから……」
見つめあい、そして約束を守るように、深い口づけを交わす。手遅れだと思った恋が、最後の恋になって想いが重なり合い、真実の愛になった。
俺たちは今、はじまったばかりの恋に揃って、身をゆだねる。