目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Love too late:真実の愛4

***


 トイレに行くと言いながら病室を出て、すぐ傍にある談話室の椅子に、思わず座り込んでしまった。


「まったく太郎のヤツ……いったい、なにを考えてるんだ」


 病室ですれ違った男のコは、明らかに大学生だってわかった。しかも泣いていたのだ、ただ事じゃないのは明白。


 だからアイツに逢った瞬間、驚きついでに不機嫌になれず、どうしていいのかすごく混乱した結果、にこやかに笑ってしまった。怒りなんて、一瞬でどこかに行く始末。


 談話室には、携帯使用許可のプレートが出ていたので、困り果てた俺はすぐに、桃瀬にメッセージする。


『ももちん、俺どうすればいい? 太郎の病室に行ったら、泣いてる男のコと出くわしちゃった。きっと病室に男のコを連れ込んだアイツは、いかがわしいコトをしようとしたんだよ』


(メッセージ送信っと――)


 渋い顔のまま送信ボタンを押し、ちょっと待ったら、桃瀬から返信があった。


『とにかくその彼について、きちんと太郎に事情を聞いてみろ。納得するまでお互いに、話し合ったらいいんじゃないか?』


 おおっ、確かに。冷静になりきれず、いきなり病気のことから聞いちゃったもんな。ここは桃瀬の言うとおりに落ち着いて、納得するまで事情を根掘り葉掘りと聞いてやろうじゃないの。


 さっきまでの重い気持ちはどこへ――桃瀬の的確な意見のお蔭で足取りも軽くなり、太郎の病室に戻った。


 ベッドの傍に置いてある椅子を引き寄せて、よいしょっと腰掛けてから、太郎の顔を見る。相変わらずのサル顔はそのままに、以前よりも血色は良好そうで、健康そのものに見える。


「おい、さっき出て行ったヤツ――」


 いつも通りの口調で話し出した途端に、太郎が慌てて弁解するように話し出した。


「タケシ先生、絶対に誤解をしてるだろ。アイツは、ただの元彼っていうか……えっと告白されて軽い気持ちでOKしたんだけど、その後俺が自然気胸で倒れてから、音信不通になって。心配して、実家に入院先を聞いたらしくてさ。わざわざ見舞いに来てくれたんだ」


 焦りながら喋った言葉を、頭の中で整理していく。ここは冷静になって、落ち着いて分析しなければならない。


「元彼ね、へえ……」

「でも、ちゃんと断ったんだ」

「――押し倒したんじゃなく」

「違うって! そんなことするワケないだろっ。やっぱり誤解してる」


 必死な太郎の形相が、俺の笑いを誘った。なんでこんなに、一生懸命になってるんだ?


(ああ、そうか。元彼と俺を二股かけていたのが、この機会でバレたから……)


「俺、タケシ先生と付き合うことにしたから、ケジメをつけるために、ちゃんと断ったんだ。そしたら泣かれちゃって」

「……俺みたいなかわいげのない年上と付き合って、おまえは後悔しないのか?」


 吐き出すように低い声でやっと告げて、上半身をぐらつかせながら、ふらりと立ち上がる。


「――電話が入ったから、ちょっと出るわ」


 太郎がなにかを言う前に、逃げるように病室を出た。その足で談話室に向かい、また桃瀬にメッセージする。


『話し合いの結果、新たな事実発覚! 俺はどうやら、二股をかけられていたらしい』


 メッセージ送信っと……。


 力なく、そこにあった椅子に腰掛ける。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?