「相変わらず、チャラ男やってんだな。早速病室に男を連れ込んで、あんなふうに泣かせるとか」
どうして、ここにいるんだよ?
「やっぱ、すぐに手術したんだな。首の包帯、苦しくないか?」
(どうしてこの状況で、明るく笑っていられるんだよ? いつもならここは、不機嫌になってるトコだろ……)
タケシ先生は、呆然としてる俺の傍までやって来て、首に手を伸ばし、包帯にそっと触る。その手を迷うことなく、ぎゅっと握りしめてやった。タケシ先生のあたたかいぬくもりが、じわりと伝わってきて、俺の胸を熱くさせる。
久しぶりの再会を噛みしめていると、目の前で少し困った表情を浮かべて口を開く。
「このバカ犬が! 出て行くならあんな絵を置いてくよりも、置手紙してから出で行けって」
そんな俺の手をぎゅっと力を入れて、更に握り返してくれる。
「気に入らなかった?」
「いいや、嬉しかったよ。診察室の目のつくところに、きちんと飾っておいた」
相変わらず穏やかな口ぶりに、違和感を覚える。絶対におかしい――なんでそんな優しい目をして、俺を見つめるのだろうか。そんなことされると、タケシ先生がなにを考えてるのかわからなくて、調子が狂ってしまう。
「タケシ先生、あ、のさ……」
(しかも、どうやって俺のことを調べたんだろう?)
聞きたいことが頭の中を過ぎるけど、タケシ先生のにこやかな笑顔を見ているだけで、まるで氷が溶けていくみたいに、質問がなくなってしまう。
「悪い、ちょっとトイレに行って来る」
俺の手をやんわりと振り解き、足早に去って行く背中を、ただ見つめるしかできない。
「タケシ先生……」
――ずっと逢いたかった――
病院のベッドにひとりで寝ていると、思い出してしまう。すぐ傍にあった、愛おしい人のぬくもりを。
タケシ先生ってば、広いダブルベッドで寝ているのに、いつも隅近くでゴロンと横になっていて。空いてるスペースがまるで、俺の定位置みたいに、なぜだか感じられたんだ。
背中をちょっとだけ丸めて眠る体に、そっと寄り添うことができるだけで、すっげぇ幸せだった。なのに今は、ワザとにこやかな笑顔を作って、俺との距離をとってる感じがする。これならまだいつものように、ガツンと怒ってくれたほうが数倍マシだよ。
「マジでタイミング悪いったら、ありゃしねぇ……」
ベッドの中で、頭を抱えるしかない。他人行儀なタケシ先生の接し方が、全然わからなかった。