目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Love too late:真実の愛3

「相変わらず、チャラ男やってんだな。早速病室に男を連れ込んで、あんなふうに泣かせるとか」


 どうして、ここにいるんだよ?


「やっぱ、すぐに手術したんだな。首の包帯、苦しくないか?」


(どうしてこの状況で、明るく笑っていられるんだよ? いつもならここは、不機嫌になってるトコだろ……)


 タケシ先生は、呆然としてる俺の傍までやって来て、首に手を伸ばし、包帯にそっと触る。その手を迷うことなく、ぎゅっと握りしめてやった。タケシ先生のあたたかいぬくもりが、じわりと伝わってきて、俺の胸を熱くさせる。


 久しぶりの再会を噛みしめていると、目の前で少し困った表情を浮かべて口を開く。


「このバカ犬が! 出て行くならあんな絵を置いてくよりも、置手紙してから出で行けって」


 そんな俺の手をぎゅっと力を入れて、更に握り返してくれる。


「気に入らなかった?」

「いいや、嬉しかったよ。診察室の目のつくところに、きちんと飾っておいた」


 相変わらず穏やかな口ぶりに、違和感を覚える。絶対におかしい――なんでそんな優しい目をして、俺を見つめるのだろうか。そんなことされると、タケシ先生がなにを考えてるのかわからなくて、調子が狂ってしまう。


「タケシ先生、あ、のさ……」


(しかも、どうやって俺のことを調べたんだろう?)


 聞きたいことが頭の中を過ぎるけど、タケシ先生のにこやかな笑顔を見ているだけで、まるで氷が溶けていくみたいに、質問がなくなってしまう。


「悪い、ちょっとトイレに行って来る」


 俺の手をやんわりと振り解き、足早に去って行く背中を、ただ見つめるしかできない。


「タケシ先生……」


 ――ずっと逢いたかった――


 病院のベッドにひとりで寝ていると、思い出してしまう。すぐ傍にあった、愛おしい人のぬくもりを。


 タケシ先生ってば、広いダブルベッドで寝ているのに、いつも隅近くでゴロンと横になっていて。空いてるスペースがまるで、俺の定位置みたいに、なぜだか感じられたんだ。


 背中をちょっとだけ丸めて眠る体に、そっと寄り添うことができるだけで、すっげぇ幸せだった。なのに今は、ワザとにこやかな笑顔を作って、俺との距離をとってる感じがする。これならまだいつものように、ガツンと怒ってくれたほうが数倍マシだよ。


「マジでタイミング悪いったら、ありゃしねぇ……」


 ベッドの中で、頭を抱えるしかない。他人行儀なタケシ先生の接し方が、全然わからなかった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?