「軽井沢に別荘を持っている、裕福な家庭で育った大学生で、中学生くらいの妹がいる長男。彼は、自然気胸と甲状腺癌を患っているんですね」
「涼一ついでに、この似顔絵も添付してやってくれ。絶対に役に立つから」
「郁也さん、似顔絵が描けるなんてすごいね。どれどれ――」
(ああ、涼一くんは知らなかったのか。それはご愁傷様です)
メモ帳に描かれたイラストを覗き込む涼一くんに、桃瀬は太郎と出逢ったときのことを思い出しながら説明をする。
「俺と同じくらいの身長だったから、185センチくらい。髪はボサボサで、顔は適度に整っていたぞ」
「整っていないよ。むしろサル顔だったって」
「そうか? でも内に秘めたワイルドさを表現するために、この絵を描いてやったんだぞ」
自信満々な桃瀬を他所に、涼一くんが似顔絵を見て固まっている。
「どうした涼一、早くヤツに送ってやれよ」
「えっ!? あ、うん……」
えいっと言いながら、両目を閉じて送信してる涼一くんと、それを受け取った相手に、内心黙祷を捧げた。桃瀬の似顔絵がどうなっているのか、俺はなんとなく想像つくからね。
「周防さんの傍に理解してくれる人が、早く戻ってくるのを祈ってます」
涼一くんは、右手をそっと差し出してきた。
「ありがと。どうなるか正直、全然わからないんだけど、助けてくれたふたりに、いい報告ができるように、俺は頑張るから」
その手をぎゅっと握りしめると、涼一くんは反対の手を優しく添えて、ふわりと包み込む。
「郁也さんと待ってます。きっと大丈夫ですよ」
涼一くんとふたり、友情を深め合っている様子を、桃瀬はただ黙って見つめていた。
落ち込んでるときだからこそ、人のあたたかみが、こんなにあり難く感じてしまい、いつもどこか強がっていた自分が、バカらしくなったのは言うまでもない。