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窓に雨が当たる音で、ふと目が覚める。ぼんやりとしながら、目の前を見てみると、いつもは背を向けて寝ているタケシ先生が、俺の胸の中であどけない表情で寝ていた。
間近で顔を拝めるのは、とてもあり難いけど、俺の好きな泣きボクロが、枕でしっかりと隠れて見られないのは、えらく残念だった。
寝乱れている髪を整えるように、そっと撫でてやると、気持ちよさそうな顔をしてくれる。
「ホントはもっと、べったりしたいけど、それすると、すっげぇ怒るもんなぁ。起きない今のうちに、ベタベタ触っちまえ」
タケシ先生の柔らかくて、しなやかな茶色い髪を梳くように撫でているだけで、もう超絶幸せ。幸せはそれだけでなく、念願だったエッチもできたし――。
「イかせようとして、イかされちゃった俺って、ホントかなり情けないよな」
初めてでつらいだろうからと、ゆっくりナカをかき混ぜるように責めていたら、突然みずから腰を激しく動かしてきて、すっげぇギョッとした。そして泣きボクロを、滲んできた涙で濡らしながら、言ってくれたんだ。
『太郎……太郎っ、おまえが好きだ……俺の横で、ずっと笑って……いてほしい』
それを聞いた瞬間、すげぇ嬉しすぎて、つい先にイってしまったけれど、満足感とか充実感で満たされた体を使って、なんとかタケシ先生をイかせてから、ぎゅっと抱きしめ合った。
「……俺も、タケシ先生の横で笑っていたいよ。アンタに怒られながら、バカにされて笑われながら、それでも一緒にいられたら、それだけで――」
心の底から愛しいと思える、この人の傍に、ずっといられるだけで――。
「生きたい、生きなきゃならない……」
タケシ先生は医者だから、俺を生かそうとウソをついて、自分の体をエサにしたのかもしれない。それでも嬉しかった。アンタが言ってくれた言葉が、じわりと胸に沁みこんだよ。
俺はずっと罪を重ねるように、愛の言葉と言いながら偽りの言葉を、いろんなヤツに囁いていた。だけどそれはこの人のために、真実の愛の言葉を告げるためだったのかもしれない。そう思うだけで、胸が絞られるように、キリキリと痛くなる。
「タケシ先生、すっげぇ愛してる。今までありがと……」
――今度はちゃんと、起きてるときに言ってやりたい。
「今までワガママ言って、いろいろ無理させて、ごめんなさ、ぃ……」
謝った言葉が泣き声に変わり、掠れながら途切れてしまう。
ずっと梳いていた髪が、なぜか一筋だけ指に絡みついた。まるで行くなと、言ってるみたいに思えてしまう。タケシ先生の意思のように、感じてしまうじゃないか。
奥歯を噛みしめて、それをさっさと素早く梳いてから、寝ている唇に優しく唇を重ねた。
「おやすみなさい」
さよならは言わない! 病気を治して、きっとタケシ先生のもとに戻ってくるから。
窓を打ちつけていた雨がいつしか止んで、月明かりが部屋の中をほんのり照らした。その淡い光が、タケシ先生の頬に落してしまった俺の涙を照らす。
唇を噛みしめ、落としてしまった涙をそっと拭ってから、寝室をあとにした。