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Love too late:揺れる想い5

 いつもバレないように心の奥底に想いを隠し、自分を偽って本音が言えないでいた。だけど太郎にははじめから、素の自分でいられた。これまた不思議なんだけど。


 ――出会い頭、ここにキスをされて。


 病院前で出逢ったときのことをぼんやりと思い出しながら、そっと右目尻に触れてみる。


『ああ、そうだよ重病人だわ。アンタに恋をした、一目惚れだから』


 偉そうな顔して堂々と告げられた告白に、驚きを隠せなかった。こんな俺の、どこがいいんだよって。


 そう思った途端に呆れ果てて、素の自分で対応してしまった。


 そして太郎に翻弄されまくり、いつしか抱きしめられるそのぬくもりを、心地良いと感じた。


 いつも誰かが自分の横にいる――それが日常で当たり前だと、今は思ってるところがある。はじめは、不快しか感じられなかったのに。


 掛け布団をぎゅっと握りしめたとき、ギギッと扉が開く音が聞こえたあとに、息を殺しながらソイツは布団の中に、ゆっくりともぐり込んでくる。寄り添うように横になり、寝たふりをした俺の右目尻に、そっと唇を押しつけた。


「好きだよタケシ先生。今日はすっげぇ嬉しかった」


 ベッドの中で横になっているのに何故だか、酷く頭がクラクラする。一気に心臓が全速力でバクバクと駆け出して、激しく脈を刻み始めた。


 あんな子供騙しみたいな言葉に、まんまと踊らされやがって――やっぱり、まだまだガキなんだな。


「いつも通り顔は怒っていたけど、あんなにほっぺたを真っ赤にして言われたら、俺のことを好きだって勘違いするぞ?」

「ブッ!?」


 あり得ない言葉に思わず吹いてしまい、口元を押さえたが既に遅し……。


「やっぱ起きてたんだ。ここにキスしたとき、まぶたが微妙にヒクついてたから、もしかしてって思ったんだ」


 太郎は笑いながら、右目尻を人差し指でツンツンと突っついた。


「で、さっきのはいったい、なにを考えて言ってくれたワケ?」


 わざわざ俺の耳元で喋り、艶っぽく笑ってる様子が、声色で伝わってくる。


「……さっきのって、なんだ?」

「おまえに好かれて嬉しいって、言ってくれたじゃん。あれって、本心なのかなって」


 心の中にいるもうひとりの自分が「大変だ、どうしよう」と右往左往し、慌てふためいてる様が見え隠れしていた。


 恋と分類するにはまだ早いような――微妙すぎる心のせいで、見事に言葉が詰まった。苦手だったヤツが、いいヤツに昇格しただけなのに。


「おまえがとりたいように、勝手に取ればいいだろっ」


 困り果てて、投げやりな言葉を吐き捨てると、ふぅんと頷く太郎。


「わかった。じゃあ病院からワセリン借りるけど……いいよな?」

「ワセリン?」

「だって、そういうことだろ。俺はそういうふうにタケシ先生の気持ち、受け取ったから」

「ちょっ……」


 俺が突っ込む前に、太郎は素早く布団から抜け出て、寝室を出て行ってしまった。


 これってもしかして、いきなりの展開なのでは――。


「おいおい、心の準備ができていないって……」


 慌ててベッドから抜け出て、後ずさりをする。俺が太郎にあんなことや、そんなことをされてしまう!


「あ、あぁ……あり得ない、絶対に無理っ!」


 想像しただけで、手足がブルブル震えた。まだ好きまでいってない、ゆえに拒否るのは当然のことなれど。


「でも我慢すれば、太郎が治療を受けてくれるかもしれないんだ……」


 何気なく窓の外を見ると黒い雲の隙間から、切った爪のような形をした細い三日月が、ちらちらと見え隠れした。それはまるで自分の心のようだと、思わずにはいられない。まだ満ちてはいない形が、太郎のことを想っている分量に見えるから。


(――ほんのちょっとの好き)


 胸元をぎゅっと握りしめたら、扉の開く音が耳に聞こえてくる。


「……おまたせ。あれ? 服、脱いで待っててくれなかったの?」

「何で、脱がなきゃならないんだ」

「――だって、さ」


 扉を丁寧に閉めて、こっちにやって来る太郎を睨むと、意味深な笑みを浮かべながら、いきなり抱きついた。


 まだ心の準備が――っ!?


「俺とエッチするの怖いの? すっげぇ震えてるけど」


 胸の中が痛いくらいバクバク高鳴りすぎていて、どうしていいのかわからない。


「こっ、怖いワケ、ないだろ。なに、言って――」


 太郎は震える俺の体をぎゅっと抱きしめて、後頭部を優しく何度も撫でてくれた。落ち着かせるように、ゆっくりと撫でる手のひらから伝わってくる温かさが、なんとも言えない。


「タケシ先生大丈夫だから。気持ちよくしてあげるし、痛かったら止めてあげる」


 聞いたことのない、胸に染み入るような太郎の声が、ふんわりと俺の中に響き渡った。そのお蔭で震えていた体が、何故だかリラックスしていき、自然と震えが止まる。


 太郎の胸の中がすごく温かくて、とても居心地が良い。

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