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渋谷卍リベンジャーズ~言霊上等卍夜露死苦~

おう、よく来たな! これからブチかますのは、渋谷を舞台にしたマジ卍ヤベェ物語だ。


スクナ? 悪霊? んなもん、知ったこっちゃねぇ! 俺らの言霊(ことば)で、全てブッ潰す!


万葉歌が最強の武器? 時代遅れとか言うなよ? 古のパワー、ナメんじゃねぇぞ!


これは、パリピと悪霊と万葉集が入り乱れる、予測不能なバトルロイヤル!


テメェら、覚悟はいいか? 魂、燃やしてくぜ! 夜露死苦ゥ!


タイパに配慮して、一話読み切りだぜぇ!


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「うぇーい! 今夜もブチ上げっぞォォォ!」


DJブースからカイトの野太い声が響き渡る。渋谷にそびえ立つ巨大クラブ「カタストロフ」。その名に恥じぬ週末の夜、そこは狂乱の坩堝と化す。ネオンギラつくフロア、爆音で五臓六腑をシェイクするEDM、アドレナリン全開で踊り狂うパリピ軍団。その中心にいるのが、金髪リーゼントをビシッとキメた、我らが「極楽鳥」リーダー、カイトだ。


「カイトォォォ! マジ卍最強!」


「今夜もカッ飛ばしてんなァァァ!」


黄色い声援が飛び交う中、カイトはニヤリと笑う。強面な顔つき。だが、仲間思いで情に厚い。それが、ヤツが渋谷中のパリピからリスペクトされる理由だ。


カイトの隣には、幼馴染のユイ。ギャル風メイクでバチバチにキメてるが、実は古文オタクというギャップ萌えの持ち主。カイトの親友でムードメーカーのケンジ、セクシー担当のアヤカ。コイツらが「極楽鳥」の主要メンバー。


「おい、お前ら! 今夜は…特別な夜だぜぇ!」


カイトはマイクを握り締め、意味深な笑みを浮かべた。そう、今夜はただのパーティーじゃねぇ。アヤカが見つけてきた古文書に記された、禁断の儀式を行う。その名も…「スクナ降臨」。


「スクナ…? なんかヤバそうな響きじゃね?」


ケンジがビビった声で呟く。


「ビビってんじゃねーよ、ケンジ! スクナのパワーを借りて、俺らは渋谷のテッペン取るんだよ!」


カイトは拳を突き上げ、雄叫びをあげた。


この時のカイトは知らなかった。スクナが、どれほどの災厄をもたらす存在なのかを。


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VIPルームに移動したカイトたちは、古文書に書かれた通りに儀式を始めた。怪しげな呪文が唱えられ、部屋の空気がドロリと重くなる。最初に異変を感じたのはケンジだった。


「……う、あ……、グゥ……!」


突然、ケンジが苦しみだす。顔はみるみる歪み、全身から黒いモヤが吹き出した。


「ケ、ケンジ!? どうしたんだよ!?」


カイトが駆け寄ろうとした瞬間、ケンジの身体が爆発した。


いや、爆発したように見えただけだ。中から、おぞましいナニカが這い出てくる。


「ククク……、久しぶりの現世……。美味そうな魂が、ゴロゴロしてるじゃねぇか……」


ソイツは、無数の顔と腕を持つ、異形の化け物。スクナ…。古文書に記された、最凶の悪霊だ。


「て、てめぇ…! ケンジを返しやがれェェェ!」


カイトは怒りに任せて殴りかかる。が、スクナの腕に軽くあしらわれた。


「無駄だ、無駄だ……。俺様の魂を喰らったら、もう二度と、元の姿には戻れねぇよ……」


スクナは嘲笑い、フロアへと向かう。そこには、何も知らないパリピたちが、まだ踊り狂っていた。


「ヤベェぞ、カイト…。こりゃ、マジで洒落になんねぇ」


ユイが震える声で呟いた。その時、アヤカが狂ったように笑い出す。


「フフフ……、スクナ様……! 美しい……! 私を、私をあなたのモノにして……!」


アヤカは自らスクナに近づき、抱きついた。次の瞬間、アヤカの身体も変貌を遂げる。妖艶な悪女…いや、それ以上のナニカへと。


「クソッ! アヤカまで……!」


絶望がカイトを襲う。その時、カイトは思い出した。


「言霊の力は、邪気を祓う……」


亡き祖母の言葉だ。祖母は、古都を旅するといつも和歌をカイトに読み聞かせてくれた。


(そうだ…、万葉歌だ…!)


カイトは震える声で、万葉歌を詠み始めた。



茜草指武良前野逝標野行守者不見哉君之袖布流

あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみがそでふる



「む? その歌…どこか懐かしいような…」


歌に込められた言霊が、スクナの動きを一瞬だけ止める。しかし、


「グハハハ! そんな歌、俺様には効かねぇよ!」


スクナは再び暴れ出し、クラブはさらなる地獄絵図と化した。壁は血で染まり、天井からは無数の腕が垂れ下がる。パリピたちは次々とスクナに憑依され、奇怪な姿で互いを襲い始めた。


万葉歌の力は制御不能。クラブ内の時空が歪み始め、過去の渋谷、未来の廃墟、そして異界の景色が混ざり合い、現実と虚構の境界が曖昧になっていく。


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カイトとユイは、時空の歪みによって過去の渋谷に飛ばされた。江戸時代の街並み、戦時中の焼け野原、高度経済成長期の喧騒…。さまざまな時代の渋谷を彷徨う中で、カイトは過去の自分自身や、祖母の若き日の姿と出会う。


さらに、ある時代では、老婆の姿をした人物(実は未来のユイ)と出会う。老婆は、カイトにスクナの解釈について問いかけた。



あかねさす むらさきのゆき しめのゆき のもりはみずや きみがそでふる



「この歌はどういう意味だと思うね」


「え?、紫草の咲く美しい場所で袖を振る貴女を見ている、そういうことですよね」


老婆は首を振った。


「これは、誰にも言えずに恋い焦がれている相手への未練、心の叫びじゃ。スクナはその心の負の部分、抑圧されたものから生まれたのじゃよ」


老婆はさらに、別の歌をカイトに教える。



かくのみし 恋ひば死ぬべみ たらちねの 母にも告げず やまず通はせ

かくのみし こひばしぬべみ たらちねの ははにもつげず やまずかよはせ



「この歌のように、ただ苦しむのではなく、自らの心を、そして言葉を強く持つことが、スクナに打ち勝つ鍵となる…」


老婆の言葉から、カイトは言霊の力の真髄を理解し始める。それは、単に歌を詠むだけでなく、そこに込められた意味を深く理解し、自らの心を強く持ち、未来への希望を込めて言葉を紡ぐことだと。過去と未来の渋谷で見た絶望の光景から、スクナを倒すためには、言葉に想いを乗せることが必要だと痛感する。


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再び、カイトとユイは現代の渋谷へと戻された。クラブ「カタストロフ」は、さらに混沌とした状況。だが、カイトの目は、もう絶望に染まっていない。過去での経験と学びが、カイトの心を強くしていた。


(俺は…、諦めねぇ!)


カイトは新たな万葉歌を胸に、スクナに立ち向かう。それは過去の老婆との出会いで、カイト自らが見出した希望の歌。



巨勢山の つらつら椿 つらつらに 見つつ偲はな 巨勢の春野を

こせやまの つらつらつばき つらつらに みつつしのはな こせのはるのを



「小賢しい! 何度やっても同じことよ。その歌で過去も未来も滅茶苦茶にしてやる」


スクナは歌の意味を変えようとしていた。


「その歌に詠まれる『つらつら』とは永遠の苦しみだ。貴様らはその痛みを未来永劫味わうのだ」


カイトは迷いを断ち切るように叫んだ。


「『つらつら』は…困難の中でも次々と美しく花を咲かせる春の連なりのことだ!」


ユイも叫ぶ。


「そして『偲はな』には、春を待ち侘びる思いが込められている!」


カイトが新たな万葉歌を詠む。すると、言霊の力がスクナの体を縛り付け、動きを封じた。ユイもまた、カイトをサポートするため、別の万葉歌を詠み始める。



馬酔木よく 我れ紐解く 宿りせむと 告げず来つる君 宿り近き

あしびよく あれひもとく やどりせむと つげずきつるきみ やどりちかき



二人の歌が共鳴し、強大な言霊の力が生まれた。クラブ全体を覆っていた闇が晴れ、光が降り注ぐ!


「グ、オオオオ……! 俺様の力が……消えていく……!」


スクナの体は、光の粒子となって消滅した。クラブは元の姿を取り戻し、人々も正気に戻る。


「終わったのか…?」


カイトは力なく呟く。その隣で、ユイが小さく頷いた。


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戦いの後、カイトとユイは傷つきながらも、夜明けの渋谷に立っていた。二人は互いの無事を喜び合い、未来への希望を胸に、新たな一歩を踏み出す。


本当にこれで全てが終わったのか? 人々の心の闇が消えない限り、スクナは何度でも蘇るかもしれない。


「まぁ、そん時はそん時だ! 俺には、万葉歌がある! 何度だって、ブチのめしてやるぜ!」


カイトはニヤリと笑い、朝日を浴びて輝く渋谷の街を見つめた。

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