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その夜、響くような痛みに僕は起きて呻いた。まぁ、当然だけれど。
「うっ」
左腕が鈍く痛む。とても無視できるものじゃない。動くのも辛くなる感じがある。
「ミオ君?」
先輩が起きて、縮こまる僕を見て電気をつけた。その明かりすら痛みを増長させるように思う。
「痛いの! 薬!」
パッと気づいて病院の袋を開けて……面白いくらい固まった。
「坐薬、しかない」
分かってるよ!
強い痛みだと飲み薬だと不足らしい。それに十分な鎮痛作用を出そうと思えば胃への負担が大きい。
それに比べ注射や坐薬は即効性があって効果も強い。今回は坐薬で出された。
でもこの坐薬、一人で入れるのは難しいんだよ!
「一つ、ください」
一つ貰って開けよう……としても片手じゃ無理だった。ピタッと形状にそってパッケージされていて、左右に引っ張る開封方法じゃ片手は無理だ。
「……開けてください」
「うん」
オロオロしながらも先輩は上手く開けてくれた。完全に開けてしまうんじゃなくて、下を少し残している。
僕は布団の中でゴソゴソしながらどうにかズボンと下着を下ろした。もの凄く間抜けで泣きたくなる。
そうして横に寝転んだ状態で利き手に坐薬を持って膝を軽く抱えて……挿入……が。
「うっ」
痛みと緊張からか上手く入っていかない。僕の括約筋こんなに硬かったかな? って疑いたくなる。
「あっ!」
その間にツルンと滑った薬が布団の中にポトリ。熱が加わると表面が溶けてくるので、何だか残念な何かになった。
「……俺、入れようか?」
「流石に無理です!」
坐薬入れてもらうって、羞恥プレイの極地でしょ。無理だよ。無理!
落としたのは諦めて、新しい物を受け取って……また失敗した。
どうした僕の尻。そんな鉄壁の防御してなかったじゃないかぁ。
「うっ」
まずい、頭痛くなってきた。それにちょっと具合悪い。
「ミオ君!」
「先輩……助けてください……」
近付いて心配そうにされて……助けてって言ってしまった。
頷いた先輩は……案外心得てくれていた。
「待ってて」と言われて放置されて……掃除用の使い捨てゴム手をちゃんと付けてきてくれた。
そうしてタオルケットをかけたままの僕の背中に回って新しい坐薬を持つと、手探りで位置を確かめている。ペタペタ触って、指が柔い部分にふにっと触れて一瞬ビクリとした。
「よし、入れるから力ぬいてね」
「え! あっ、ちょっと心の準備ぃぃ!」
問答無用、お構いなし! 不意打ちっていうのもあったのか、ツルンと坐薬は中へと入ってきた……までは有り難いが……。
「先輩、指!」
ちょっとだけ入ったままなんですけれど!
「あぁ、抜けてこないように? 説明読んだら三十秒くらい押さえておけば大丈夫らしいし」
「いや、あの!」
そこに指が入っている状況というのは腐男子の僕としてはとても容認出来るものではなく、何か違う妄想と現実がグチャグチャに混ざった結果あり得ない危機的状況に陥る可能性すら皆無ではなく、しかも相手がノンケのイケメン先輩という現実が追い打ちどころかトドメを刺す勢いで迫ってきてこちらは瀕死になるのですがぁ!
ドドドドドッと妙な動悸がする。こんな感じなのに第三の僕は「あっ、お尻に指入ってる感覚ってこういう感じなんだー」と冷静な感想を述べるから黙ってて!
「そろそろ大丈夫かな」
「っ!」
指が抜ける瞬間、僅かにゾクリとした感覚があった僕は今ここで死にたくなる。恥ずか死ってものが本当にあるならば今だよ。
「ミオ君?」
「……ありがとうございます」
これは医療の介助。意識されてない。先輩はノンケでノーマルだし、これ優しさだし。ほらあれだ。手を怪我してるからご飯あーんと変わらないんだ。
……それはそれで萌えるの止めようよ僕!
怪我なんてするもんじゃない。そう激しく思うのでした。
敬具