『おれさま!今
ちょうど、家を出る準備をしていた私に、一件のショートメッセージが届く。
『おれさま!』なんていったいどこの
今どき、
私の
すでに私は
『あなたさま!ごめんけど、今日はこれから部活があるから無理』
『ごめん、また変換ミスってた。そっか、じゃあまた今度ね』
送る前にもっと
この前なんて『夜間に火ってつけていいんだっけ?』と聞かれ、ダメに決まってるだろ!と
私の幼馴染は、現代社会に火を
ほかには、『かわいい叔父のグッズ大量に買った』という間違いもあったなあ。
思い出せば、クスッと笑えるものから、全く面白くないもの、意味がわからないものまでユウキの変換ミスは
ーーさあ、今はユウキのことを考えるのはここまでにしておこう。私は部活へ行くため自転車にひらりと飛び乗り、学校までの道を急いだ。
「あのさあ、ユウキ。またさっきの発表で変換ミスってみんなに笑われてたよね。昨日のメッセージもそうだけど、やっぱりちゃんと確認した方がいいって。これからテストもタブレットで入力して提出することもあるって先生言ってたし。それで
今日は社会の授業で、発表の時間があった。私たちはタブレットやパソコンで発表のスライドをつくったのだけど、そこでまたユウキがやらかしたのだ。
調べた本やホームページを
「
「まとめる時間がなくて、急いでスライドをつくったから見直す時間がなかったんだ。それに、俺はみんなが笑ってくれたから、けっこう楽しかったけどな。発表もさあ、漢字はミスってたけど、内容はよかったでしょ?」
「もう、なんなのそれ。先生も『発表の前は、しっかり確認することも大事ですね』って言ってたよね。全然反省してないじゃん!」
「ごめんごめん。いや、わかってるって。テストだったら困るってこと。これからはちょっと気をつけてみる」
ユウキはちょっとだけ
「なあ、今日これから家庭科じゃん。今日ってなにつくるんだっけ」
「えーっと、たしか卵料理……オムライスじゃなかったっけ」
「うわ、まじで。俺、オムライスめちゃくちゃ好きなんだよな。そういえば、卵の
「なにそれ、変な質問。どっちが好きかなんて考えたことないよ。オムライスなんて、卵全部まぜるから、白身とか黄身とか関係ないよね?」
「いや、幼馴染として、卵の白身か黄身かどっちが好きか
「把握する必要、無さすぎでしょ」
私たちは、そんなたわいもない会話をしながら家庭科室へ向かった。
放課後。私はまだ教室にいる。今日は部活が休みだから、日直の仕事を終わらせて、何となく少しだけだらだらと時間をつぶしていた。
ふう、と軽くため息をつく。ユウキは今頃部活だろうか。もう帰ってしまったかな。あわよくば帰りに会えるかもしれない、と思っているけど、あまり長く残っていて、ユウキを待っていると思われたくはない。
今日はもう帰ろうと思い席を立った瞬間、スマホの電子音が鳴って、画面が明るくなる。
『ずっと君が好きです』
メッセージの差出人は……ユウキだ。
急に、心臓がドキドキとうるさくなる。
……なにこれ。ユウキが私のこと?
いや、待てよ。そんなわけないか。ええと。落ち着け私!
そうだ、いつもの変換ミス。変換ミスだとしたら……今日、卵の黄身か白身かどっちが好き?って話をしていた気がする。
ということは、これは『黄身が好き』ってメッセージなのか。そんなこと、わざわざ送ってこなくていいのに。
それにしても、どう返信しよう。
私は突然の難題に頭をかかえた。
『知ってる、私も愛してる♡』くらいのノリで、
そんなことをぐだぐだと考えている間に、メッセージは取り消されてしまった。
『ユウキがメッセージの送信を取り消しました』
……もう見ちゃったんだけど。
でも、そっか。ちゃんと今日の私のアドバイスを実行して見直したんだ。送る前じゃなくて送った後だから遅いけど。
やっぱり間違いだったんだな……。
ちょっとだけ、本当にユウキが私のことが好きならよかったのにって思っちゃった。
そんなわけないのに。
はああああ、と今度は深いため息をつく。
深呼吸をくり返していると、さっきまであれほど早くなっていた心臓も、だんだん普段通りの規則正しいリズムに戻ってきた。
全く……やっぱり変換ミスなんていいことない。これは面白くないときの変換ミスだ。ユウキのばか。私のムダなドキドキを返してくれ!
ーーもう帰ろう。
ひとりで
だけど、またスマホが鳴りだし、今度はユウキのかわいい叔父、いや、かわいい推しが歌う曲が流れてくる。
電話は、ユウキからだ。
「どうしたの? さっきのなら取り消される前にもう読んじゃったけど。どうせ、卵の黄身と間違えて送ったんでしょ!」
「……今、どこにいる?」
やけくそになって強い口調の私とは反対に、ユウキはいつもより
うん? 何だかユウキの様子が変だ。
「……えーっと、まだ教室にいるけど。これから帰るところ」
「ちょっと待って。今からすぐ行く。絶対、先に帰らないでよ」
そう言うと、こちらの返事を待たず、ユウキは電話をぷつっと切った。
教室にやって来たユウキは、はあはあと胸を上下させていた。どうやら走ってきたらしい。そして、私を正面に
「さっきは
……本当に?
せっかくおさまったと思っていた心臓が、また早くなる。
それにしても……声に出しても、砂糖なのか、黄身なのか、私なのか、結局どれかわからないじゃん!とツッコミを入れたくなるような告白が、ユウキらしすぎる。
私はクスッと笑って、それからゆっくり、どんなふうに返事をしてやろうかと考え始めた。