私は取材のため、噂の占い屋へとやってきた。
口コミやネットでも『絶対に当たると評判』の占い師。なんでも百発百中なのだと話題。これはネタになる。
だけど、誰に尋ねても詳細については何故かみな口をつぐんでしまう。しかたないので、客を装って直撃取材することにした。
「ここね」
目的の店は古ぼけたビルの2階にあった。
扉の横には立て看板が――『1日限定3名様までの診察となっております』
「え!? 診察?」
ここって診療所?
場所を間違えたかしら?
でも店名はネットにある通り間違いないし……
診察とは何ぞや?
鑑定ではないの?
他の占い師と差別化するための新手のキャッチかな?
まあ、実際に観てもらえば分かるか。幸い他に客がなく、私は待つこともなくすんなりと中へと入ることができた。
中は薄暗かった。扉の奥にはテーブルが一つ。その奥に目深にフードを被った女性らしき人物が座している。うん、雰囲気は十分ね。
「いらっしゃいませ」
声からしてやはり女性のようね。
「こちらで占いをやっていると伺ったのですが?」
「はい、やっておりますよ」
ほっ、やはり診療所じゃなかった。
「こちらへどうぞ」
「はい」
私は勧められるまま彼女の前に座った。
すると、女性が1枚の紙を差し出した。
「まずはこちらにご署名を」
受け取ると書類には同意書と銘打ってある。
ん? 同意書?
「あ、あのこれは?」
「昨今、色々と患者からのクレーマーなども多く、対策として同意書をとっているのです」
患者?
文面を見れば、診療や誤診などにクレームをつけるなとある……ここは病院か?
「はあ……占い師業界も大変なんですね」
「ええ全く」
サラサラっとサインをすると、占い師は更に一枚書類を取り出した。
「次はこちらにサインを」
「まだ書類が必要なのですか?」
見てみれば個人情報取り扱い同意書だった。
「占いでは、お客様の個人情報を扱います。ですが、昨今は何かと個人情報の取り扱いが厳しくて」
「そ、そうですね個人情報の扱いは重要ですよね」
ま、まあ、そう言う事もあるのかもしれない……あるのか?
「以上を同意していただけたのなら次はこちらを」
「え!? まだあるんですか?」
更に手渡された書類には契約書とある……何の契約?
ちょっと怖いんですけど。まさか臓器売買とかじゃないでしょうね?
「占いにオプションもありますので、それに合わせて契約書を作成しているのです」
「ずいぶんとこだわりがあるのですね」
「こだわりと言うか、みな一律に同じ料金では不公平だと苦情も多くて」
「なるほど?」
よく分かったような分からないような?
えーと、オプションの種類は……CT? MRI? 検体検査?
まんま病院じゃない!?
あっ、コース選択もできるんだ。とりあえず、今回は取材だから一番安いのを選んでと。
「では次にこれを」
「まだあるんですか!?」
渡されたのは名前や生年月日、血液型などを問うたアンケート用紙のようなものだった。
「やはり占いには必要なことですからね」
「こういうのは占いをしながら口頭で答えるのでは?」
まったくもって雰囲気ぶち壊し。いいえ、占いが当たればいいのよ……いや、やっぱり雰囲気も大事だと思う。
「ええ、声に出すと誰に聞かれるか分かりません。プライバシー保護の観点からこのような形式を取らせていただいています」
「た、確かに……」
「全て終わりましたらきちんとシュレッダーにて廃棄しますのでご安心ください」
ホントに雰囲気ぶち壊しである。
もう、分かったわよ。
えーと、年齢24歳、A型で……
サラサラっと書き終えたけど……まだ書類が出てくるのかしら?
この前、入院した時の事を思い出してしまった。次から次に書類にサインさせられたっけ。ここホントに病院なんじゃない?
「お待たせしました」
はあ……やっと観てもらえる。
「あなたの診断結果ですが……」
診断って
「あなたの未来は……」
「はい」
「……死にます」
「は?」
「ですから死にます」
「いやいやいやいや、ちょっと待ちなさいよ!」
「クレームは受け付けませんよ?」
「クレームじゃないでしょ。私は人間なんだからいつかは死ぬに決まってんじゃない」
そりゃあ100%当たるけど、それじゃ占いにならないでしょうが!
「何年何月何日何時何分に死ぬかを当てなさいよ」
「ですが、あなたは一番安いコースを選ばれましたよね?」
まあ確かに一番安いのを選択したし、そこまで正確なのを求めてはいないけど。それにしても雑過ぎるんじゃない?
「オプション検査をされていませんので、詳しい診断ができません」
「病院かここは!!!」
「ちっ!」
舌打ちしやがったよコイツ。
「せめて何年後かくらいは当てなさいよ」
「仕方ありませんね……よいしょ、と」
占い師はテーブルの上に大きな水晶玉を置いた……始めからちゃんとやりなさいよ!
目を閉じると彼女は水晶に向かって手を翳し何やらブツブツと呪文を唱え始める。ちょっとは本格的じゃない。雰囲気も出てきたわ。
「むむむっ、見えてきました」
「おお、それで?」
「あなたの死期が見えました」
「ごくり……」
「あなたは……98年以内に死にます」
「ふざけんな!」
そんなに生きたらギネスに載るわ!
(※ギネスブック:ジャンヌ・ルイーズ・カルマン122歳)