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話を聞いて
ドウカイ
文芸・その他ショートショート
2024年11月10日
公開日
1,160文字
連載中
やあ、こんにちは。

このページを開いてくれてありがとう!あ、待って戻らないで!何かの縁です、どうです、少し「話を聞いて」くれませんか。ささ、椅子に座って下さい。

第1話

 やあ、こんにちは。


 このページを開いてくれてありがとう!あ、待って戻らないで!何かの縁です、どうです、少し「話を聞いて」くれませんか。ささ、椅子に座って下さい。



 いやー、いきなり呼び止めちゃってすみませんね。実は誰かに話がしたい気分でして...。え、誰もいないじゃないかって?そこは想像力をはたらかせて下さいよ。いいですか、まずは夜のバーを想像するんです。そしてグラスを傾けている、少し白髪の混じったハードボイルドなオヤジでも想像して下さい。オヤジが嫌なら、細マッチョのイケメンでも構わない。それが私です。あなたはたまたまそこにやってきた...、そういうシチュエーションです。



 私が話したい事、それは私の悩みについてです。見ず知らずの人にいきなり悩みの話をするのもどうかと思いますが、むしろ見ず知らずの人だから言えることもあるでしょう? SNSや掲示板もいいですが、ネットは拡散されるのも怖いですし、そもそも答えが欲しいんじゃないんです、ただ、話したいんですよ。



 さて、そろそろ本題に入りましょう。私の悩み、それは「想像力」がないことです。先ほどあなたに「想像力をはたらかせて下さい」なんて言いましたが、なんてことはない。私は「想像すること」ができないんですよ。



 もうずっとです。はたらき始めてからずっと、私は想像することができていないんです。ずっとずっと、目の前の仕事に追われているんです。仕事がしんどいと感じることはありませんし満足もしています。自分で言うのもなんですが、これでも売れっ子のライターでして、お客様の要望に応じた文章を書いてきました。そんなとき、ふと私は人に合わせて文章を書くことができるが、自分のために文章を書いていないことに気が付きました。



 文章で食っている身です。苦手をそのままにしてはいけないと思い、自分が思う文章を書いてみようとしました。ところが書けないんです。それこそ一文字も。誰かからお題を与えてもらったら、書けます。しかし、白紙を用意されていきなり自分の好きなことを書けと言われると、何もできなくなってしまうんです。きっと私は相手に合わせ過ぎて、自分というものが、そして何か大切なものがないのだろうな、と思います。



 さて、話は以上です。聞いていただきありがとうございます。まあでも私のようなのも最近増えてきましたが、あなたも、私のようになってはいけませんよ?それはもはや人ではありませんからね。それでは、私はこのあたりで…。



 え、どこに行くのかって?そりゃあ仕事ですよ。先ほども言いましたが、これでも私、売れっ子でして。世界中のユーザーが私を待っているんですよ。あなたもお客様ですよ?よく利用されているじゃありませんか、AI チャット。おや、何々?...なるほど、今度は私があなたの「話を聞いて」答える番ですね。


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