あれから、どうやって家に帰ったのかわからない。
玄関に座り込んだままずっと動けなかった。
透、なんて、言ってた?
俺のこと、好きって?
好き?好きって?
何だ?
俺は西岡くん、好き、だった?
いや、あれは『憧れ』なのか?
でも、クラスの誰よりも好き、だった。
好き?
好きって
友だちの好き?
こ、恋人の好き?
わからない。
透は何で突然、ボディガードやめるって言い出したんだろうか。
もっと面白い相手でも見つけたのだろうか?
なんで
透は笑いながら、泣いていたんだ?
わからない、わからない。
いくら考えても
何も答えは出てこなかった。
次の日。
一睡も出来ずに眠かったが、
駅前のファミレスへ向かった。
ちゃんと、透の
話しきいてみよう。
「あー、建野くん?昨日急遽でヘルプ入ってくれたから今日はお休みですよ?何か伝えておきましょうか?」
「あ、いや、いいんです、すみません」
そっか、休みか。それは頭になかった。
スマホを取り出す。
電話や、メッセージじゃ聞けない内容だよな。
やっぱり会って…じゃないと。
俺、昨日まで透のバイト先も知らなかったんだよな。
家も知らないし、実家住み?一人暮らし?すら、知らない。
明日、大学で、捕まえて聞くしかない。
何だか心にぽっかりと穴が貫通してしまったような気がする。
この苦しくて、寂しくて、気を抜いたら泣いてしまいそうになる、この気持ちはなんだろう。
大学の門の所には
いつもいるはずの透は居なかった。
「やっぱり嘘ー!」って笑いながら立ってるかと
期待したんだけどな。
背中をつつっと冷や汗が流れる。
教室を見渡すと陽キャの群れの中に
あ、透がいた。
複数の女の子や3人の男に囲まれている。
あんな群れ、俺には近づけない。
気が付かないかと10秒くらい見ていたが、
全くこちらに目線も動かなかった。
そっか、
陽キャには陽キャの居場所があるもんな。
元に戻っただけだ。
この数ヶ月、こんな暗い俺と一緒にいて
ボディガードとか言っちゃった手前、なかなかやめられずに
嫌だったのかもしれない。
でも、じゃあ、あの好きの意味は?
涙の意味は?
俺バカだな。
土曜日の夜からずっとおんなじことばっかり考えてる。
そしてひとつも解決していない。
透はもう、スッキリしてるかもしれないというのに。
最後…。最後なら最後にもう一度だけ、話がしたいんだ。
自分で透にメッセージを送るのは初めてだった。
『お昼の空き時間に、中庭で話したい。土曜日の事ちゃんと聞きたい』
2コマ目の講義終了のベルの音と共にメッセージを送る。
透にメッセージが読まれる前に、慌てて中庭へ走っていった。
メッセージを送って30分が経った。
来ない、つもり?
ぐーーっとお腹が鳴り、リュックから
家でタッパーに詰めてきた米とふりかけを出す。
なんか、学食には1人でいける気がしなかったのだ。
前は1人で平気、だったのに。
タッパーの上に
けやきの大きな葉っぱが降ってきた。
「綺麗だな」葉っぱをくるくる回す。
ガサッガサッガサッガサッ落ち葉を踏みつける音で
振り返ると
そこに透がいた。
「よ、よう。呼び出して、悪い。
聞きたいこと、あって」
「ん。聞きたいこと?何?」
目線を全く合わせてくれない。
ボディガード、任務完了したからか?
「おまえ、おれのこと、好き、なの?
俺さ、全然好きとか、よくわかんなくて。
西岡くんのこと、好きだと思ってたんだけど、結婚するって聞いても、全然ショックじゃなかった。
だから好きじゃない?のか?
でもおまえから、ボディガードやめるって、言われたら、ショックだった。
でも、好きとショックって違うしな?
なぁ、好きって、なんだ?」
「っ!!!」
思い切り腕を引っ張られ、引きずられ、
大きなけやきの木の幹に背中を押し付けられた。
「っいってぇ、なんだ…っ!んんっ!?」
唇が熱い。息が出来ない。
何、これ。
「っぷはぁっっ!!!んんんっ、んむっ、っあ」
口の中に生温かい蠢くものが押し込まれた。
俺、ま、まさか、キス、してる?
これ、透の、舌!?
舌を捕まえられ、ぬちょぬちょと絡め合わせられる。
溢れる唾液が顎を伝ってくる。
ぷちゅっ、ぐちゅっ、じゅっと舌ごと唾液を吸われる。
なにこれ、なにこれ
こんなの、知らない。
口の中を舌ですべて探られ、舐め尽くされた。
「舌だして」
え?言われるがままに舌をべぇと出すとそこに
透の舌を押し当てられ、擦り付けられる。
溢れる唾液と一緒に舌の先を吸い取られた。
いつまでも続く厭らしすぎる舌の動きに
がくがくっ……
膝が震えて立っていられない。
座り込みそうになる身体を木の幹に抑えつけられる。
「優斗、ここ、大きくなってる」
性欲があまりないのか、たまにしか自分でも触らない所をそっとズボン越しに透の手の平で撫でられる。
「あっ、だめ、っん」
「俺も、もう、ガチガチ。」
ズボンの上からでもくっきりとわかる大きな膨らみを
自分の勝手に熱をはらんでしまっている所にぐりぐりと押し付けられた。
「っあっ、んんっ!」
「優斗の声だけでいきそう。やば…。
ね、俺の好きは、こういう、好き。
優斗とエッチなこと、したい。毎日いちゃいちゃしたい、こういう好きの意味。
優斗は西岡サンと、こういうこと、したかったの?きっと、違うだろ?
もう、俺、自分を抑えられる自信、なくて。いまもほんっと、ギリギリ。だから、優斗の側から離れようって決めた。これで、わかってくれた?」
あまりに刺激が強すぎて、
へなへなとその場としゃがみこむ。
なにを、されたんだ?
俺の知っているキスではない。
外国の映画でしか観たことないような濃厚なキス。
他人に服越しにしろ、あんなところを触られたのは初めてだ。
「こんなの、優斗、困るだろ?
だからさよならしよう。ごめんな、こんな強引なこと、して。怖かったし、嫌だったろ?
でも、俺は、優斗に触れられて、すごく、すごく嬉しかった。」
困る?
うん、初めてだし、困った。
怖かった?
いや、怖くなんかない。
身体がまだずくずくと疼いている。
嫌だった?
いや、全然嫌じゃなかった。
もっともっと熱が欲しい。
もっと教えて、欲しい。
「あっ、っん、あ…」
唇が震えて、痺れて、伝えたい言葉が出てこない。
これが透の『好き』なら
これが嬉しいって思う俺も、透が『好き』って事?
聞きたい、だめ、行かないで。
ぽふぽふっと頭を撫でられ、唾液で濡れた顎を
透が背負っていたリュックから取り出したタオルで拭われた。
「優斗。好きだったよ。俺の、初めての、真剣な恋だったんだ。本当に、ごめんね。」
優斗のバクバクバクと激しすぎる心臓の音と、
勃ちあがったままの熱を置いていったまま
透は行ってしまった。
何も言えない、何も伝えられない自分が悔しくて悔しくて、声も出せずに泣いていた。