「昨日のサッカー大会で、勝ち進んだからさ、
日曜日決勝なんだ。優斗観に来てくれる?」
「はぁ!?」
陽キャの透と学食でランチ中に突然言われた。
昨日、俺はまた過呼吸を起こしてしまい、
透に助けてもらった。
あんな陽キャ好きじゃないけれど、
こいつの側にいたら
なんだか、発作が起きても大丈夫。
そんな気がしてしまっている。
詐欺師の本領発揮だろうか?
「いや、日曜日バイトだけど。」
「あ、やっぱりそうだよねー。でも準決勝と決勝だけで、12時頃には終わるからさ、もし、来れそうだったら来て欲しいな。」
野菜炒め定食を食べながら
いつものアイドルスマイルを見せられる。
うざ。
だからそーいうのは女の子やファンにしろって。
ちらっとスマホの予定表を見る
【バイト12時〜21時】
げ、午前中あいてんじゃん。
「ま、いけたら、いけたらいくわ。」
「あーー、行けたら行くって1番来てくれないやつだよねぇー!残念!でも、一応8時半スタートだから、もし、来れたら!」
「お、名波くん、お疲れ様。いつも丁寧に品出ししてくれてありがとうね。」
自分の父親世代のチーフ。
いつもさりげなく褒めてくれる。大学生になっても、褒められるって嬉しいもんだ。
「あ、あの、チーフ。すみません、日曜日なんですけど、午前中に、予定はいってしまって。
入りの時間13時に変更してもらうのは、可能ですか?」
「ん?珍しいね!名波くんがシフト変更か。
どれ、日曜日…。うん、14時まではパートさんが入ってくれてるから13時入りでも、14時入りでも大丈夫だよ。」
チーフの言葉に甘えて14時入りにしてもらってしまった。
あれ、俺、何?行く気まんまんみたいじゃん。
いや、透が見たいとかじゃなくて!
久しぶりに生のサッカー観てみたいって思っただけ!
高校時代はいつも、窓からこっそり観るだけだったからな。
久しぶりに高校時代のサッカー仲間達と思い切りサッカーができる。
朝早くから、念入りにストレッチをしたり、走り込んだりアップをする。
あぁ、優斗、来てくれたらなぁ。
かっこいい所、見せたら、少しは気持ち、傾いてくれないかな。
決勝のキックオフまであと15分、監督と仲間達と最後の確認をし合う。
ん!?!?
水飲み場の所にいるのって…
まさか…。嘘…だろ!?
思わず走り出した。
「優斗!!!」
俺を見るなり、ゲッ…といった顔をされる。
でも、来てくれた、来てくれた!!!
嬉しい!!!
思わず抱きしめてしまった。
「っ!離せっ!なにすんだよ!!!」
暴れる優斗すら愛おしくてたまらない。
「嬉しい!まさか、来てくれるなんて。本当に嬉しい、俺、絶対勝つから、観てて!」
「つまんなかったら、帰るから。バイト、あるし」
「絶対に点決めるから!よっしゃ、テンション上がった!じゃ、いってくるな。」
何故か顔を隠す優斗から名残惜しく離れた。
絶対優勝してみせる!!!
少しでも、少しでも優斗にかっこいいって、思って欲しい。
ピッピッピーーーーー!!!!!
試合終了だ。
透のチームが4-1で優勝だ。
透は宣言通り2点も決めていた。
すごい。大学生サッカーの迫力に思わず声を出して応援してしまった。
喜びあっている透をちらっと横目で見る。
もう12時過ぎだ。バイトに遅れないように帰ろ。
頑張ってたからな、明日、大学で昼飯でも奢ってやろう。
楽しい試合を観たなぁーと、
興奮ぎみの気持ちを抑えながら、校門へと向かおうとする。
「あれ、名波?」
…え?この声?
「名波?名波だよな!?なぁ、元気か!?大学?専門?どこ行ってるんだ、今。てか、何でここに?」
なんで、ここに。
それはこっちのセリフだ。
高校一年で砕け散った心のガラスを
拾いたくても、拾わせてもらえない。
まさかの三年間同じクラスだった。
神様はなんて意地が悪いんだと、憎んだ。
大好きで大好きで仕方なかった男が目の前にいた。
背は高校の時よりもさらに伸びたのだろうか?
180センチを超えていそうだ。黒髪の短髪をカッコよくセットしている。穏やかな笑顔と、笑った時に無くなる優しい目が高校の時から変わらない。
「に、西岡く、ん?」
声が震えてしまう。
あのBL漫画事件の後も、西岡は今まで通り接してくれた。それが逆にとても辛かった。キモいと、他の奴らみたいに突き放して欲しかった。どうしても甘い期待を抱いてしまう自分が嫌で仕方なかった。
でも、高校2年の時に学年1可愛いと噂されていたサッカー部のマネージャーと付き合い始めたのを知り、本格的に、心のガラスは木っ端微塵に砕かれた。
もう、2度と、会うことなんてないと思っていたのに。
本当に神様は意地が悪い。
「あ、俺はさ、OBチームで準々決勝で負けたんだけど
まぁ、応援に。名波、サッカー好きだったんだな。それとも、誰か知り合いでもいるの?」
「あ、あの、うん、まぁ、そんな感じ。」
「ははっ!!相変わらずだなぁ、名波。なぁ、連絡先教えてよ。今度飯でも行こう!高校ん時、名波全然口、聞いてくんないから、結構ショックだったんだぞ。」
そう言いながら、ズボンからスマホを出してくる。
どうしよう、連絡先…聞いてどうする?
もう、終わった恋だろ。
何を期待してんだ。
でも、他の友だちだって、連絡先くらい、みんな知ってるじゃないか。
俺だけに聞いてるわけじゃない。
「あ、あの…っ」
話し始めた時、透の声が大きく響いた。
「おーーい!優斗ーーーーー!!!!
観ててくれたー!?」
あ、どうしよう。透、来ちゃう。
あれ、なんで?
あれ、なんでおれ、焦ってんだ。
何に焦ってんの?
「観てたかー?優勝したぞー!!!」
「あ、う、うん。」
透が西岡に気がついてしまった。
「ん、どちら様?優斗のお友だち?」
「あ、そ、その、えっと…」
西岡がニコニコした表情で透に話しかける。
「優勝おめでとう!観てましたよー!ナイスプレー!!
あ、俺は高校の時、名波の…」
「ク!!クラスメイト!!さ、3年間、同じ、クラスだったんだ。」
何を焦ってる?透に、好きだった奴ってバレるのが嫌なのか?
それとも西岡に、大学では陽キャと一緒にいるって思われたくないのか?
わからない。
「そうそう、名波。ほら、連絡先交換!」
再びスマホを差し出される。
「あ、う、うん。」
友だち、友だち、ただの、友だち。
ピコン。
西岡の連絡先が自分のスマホに表示される。
高校の3年間、欲しくて欲しくてたまらなかったものだ。
「名波っ相変わらず、くるんくるんだな、髪。猫みてー。」
そう言われ髪の毛を指でくるくると絡められた。
どうしようどうしよう。
嬉しい、触られてしまった。
やっぱり、まだ、
俺…。
顔が燃えるように熱くなる。
恥ずかしくて俯いて必死に顔を見られないようにした。
「お、俺、片付けしてくるわ。邪魔しちゃった、な。」
え?
見上げた透は今まで見た事のないほど
怖い顔をしていた。
どうしたんだ?
さっきまで、嬉しそうにしてたのに。
「あ、おい…。」
引き止める間もなく、透はその場から逃げるように走っていってしまった。
なんだあれ。
なんなんだよ、あの優斗の顔!
あんな、バレバレな顔して。
あいつ、優斗の好きな奴だ。
何となく優斗が同性が好きなのは雰囲気で気がついていた。
だからこそ、自分にもいつか、チャンスがある、そう思っていたのに。
まさか、まさか、こんなタイミングで?
全部いいところ、あいつに持って行かれた。
くそ、くそ、くそ!!!!!
あの男は友だちとしてしか、優斗のこと見てないだろ?
そんなやつに髪の毛さわられて、
嬉しそうにしやがって。
俺には…
あんな顔、見せてくれた事、ないだろ。
いや、待てよ、
高校の時から発作が出るようになったって言ってた。
あいつが、関係してんじゃないのか?
なら、何であいつはそんな優斗を放っておいたんだ?
やめろ
やめてくれ、優斗に近づかないでくれ。
せっかく、せっかく俺の事、見てくれるようになったと思ったのに。
こんな、こんなに惨敗だとは。
もう、優勝の打ち上げにも行く気力もなかった。
お願いだから、優斗とあいつが連絡のやり取りをしませんように…。
俺から、優斗を奪わないでくれ…。
どうすれば、優斗は俺を見てくれる?
ぎゅうぎゅうと痛む心臓を握り締めながら、
必死で涙を堪えた。