以下の空欄を埋めて、あなただけの物語を作ってください。
二人の男が話をしている。一人は作家で、もう一人は編集者だ。彼らは新しい物語について考えている。
「まずは主人公だな。どんなキャラクターにする?」
編集者の問いかけに作家は答える。
「そうだな……( )」
選択肢
1. 売れない作家兼探偵の男にしよう
2. 大事な物を取り戻すために戦う女はどうだ?
3. 好奇心が旺盛で友達思いのお人好しな男だな
4. 物語を愛する繊細な女性にするよ
「悪くない。それじゃあ次、どんな出来事から物語が始まるのか、聞かせてくれ」
「( )」
選択肢
1. 依頼があって行方不明になった女子高生を探す
2. 大きな組織に一人で立ち向かおうと決意する
3. 友人のせいでとんでもない事態に巻き込まれる
4. ある日、大事にしていた物語を忘れてしまう
「いいね。けど、起承転結の転にあたる部分が肝心だぞ。その後にどうなる?」
「そりゃあ、( )」
選択肢
1. 殺されたはずだったが生き返るんだ
2. 事故で動けなくなって弟が代わりになる
3. 思わぬ人物に妨害されて状況が悪化する
4. 身近な人の助けを得て希望を見出すんだよ
「おもしろいじゃないか。最後の結末は?」
作家はにこりと笑って答えた。
「当然、( )」
選択肢
1. 無事に犯人を捕まえて一件落着さ
2. 組織に一泡吹かせてハッピーエンドだ
3. 元通りとはいかないが平和な日常を取り戻すんだ
4. 失った物語を取り戻してお茶会をするのさ
出来上がった物語を読んでみてください。そこにはどんな世界が広がっていますか?
―――――――――
ベッドの端に座った一坂は目を閉じ、黙って胸の前で手を組んでいた。
日南隆二はデバイスをスリープさせると、静かに彼女の様子を見守った。
一斉送信された「物語」がどれほどの効果をもたらすか、現時点ではまだ分からない。しかし、それはたしかに日南と一坂のデバイスにも送られてきた。
願い続けていた彼女が、ふとまぶたを上げた。
「見えました……」
驚いたようにぽつりと漏らし、一坂は日南を見る。
「
泣きそうな顔で笑う彼女へ、日南は安堵から満面の笑みを浮かべた。
「取り戻せたんですね」
「はい。みんな、ちゃんといます。誰一人殺されてません、復活したんです」
まだ少し信じがたい気もしたが、それよりも彼女が嬉しそうにしていることが、日南にとっても嬉しかった。
「よかった。ちゃんと成功したんだ」
「ちょっとだけ、苦い思いもありますが……」
と、一坂はうつむきながら、左手を自分の胸へあてた。
「でも、みんながここにいる。私にとって、なくてはならないものだったみたいです。きっと嫌な思い出も含めて、愛せるようにしていかないといけないんですね」
にこりと微笑する一坂を、日南は我慢できずにそっと抱きしめた。
「俺もいます。辛い時は俺を頼ってください」
「日南さん……」
「一坂さんが望むなら、キスでもハグでも、いつだってしますから」
日南がぎゅっと両腕に力を込めると、一坂の小さな手が日南の背を抱いた。
「私もそうありたいです。日南さんが望むなら、キスでもハグでも、その先だって」
頬を赤くしながら一坂が小さく笑い、日南も顔が熱くなる。今すぐにでも口づけたい衝動を抑え、言った。
「そうだ、取り戻せたって連絡しないと!」
慌てて彼女を離し、デバイスを操作し始める。しかし、一坂は機嫌を悪くするでもなく、黙って日南の肩へもたれかかっていた。
足早にサーバールームを出て、千葉は近くに待機させていた田村の元へ駆け寄った。
「どうだ、見つけたか?」
「今やってる」
ぎゅっと両目を閉じて願う田村だが、いまいち欲しい情報が降りてこない様子だ。
やはり他の仲間たちと違って、自身に直接関係のない記憶だからだろうか。少々無謀だったかもしれないと、今さらになって千葉が考えた直後だった。
「あ」
急に田村がまぶたを開け、千葉ははっとする。
「どうした?」
「うん……何か、戻ったっぽい」
「戻ったって、記憶が?」
「そう、事実が今ならある。もしかしたら、警察が捜査を再開させてくれるかも」
千葉は目を丸くすると、たまらず田村をぎゅっと抱きしめた。
「それじゃあ、今僕が警察に知らせれば……!」
「ああ、きっと話を聞いてくれる」
「やったな、楓」
喜びを噛みしめるように言い、千葉は田村を離した。
「それじゃあ、ひとまず帰ろう」
「おう」
と、田村は笑顔になってうなずいた。これまでにないほど自然な笑みだった。
北野響は目を瞠った。図書室で話をしている二人から、次々と物語の核が生まれては天井を突き抜けていく。
急いで外へ続く扉へ向かい、ボタンを押して階段を駆け上がる。プレハブ小屋から外へ出ると、周囲にあった荒野が街の景色に変わりつつあった。
「これが、想像の力……」
再生ではなく新生だ。今まさに目の前で、作家と編集者の物語が様々な人によって生み出されている。
大きなタワービルやレトロな看板の商店、色とりどりの屋根が並んだ住宅街など、創造された想像がどんどん形になっていく。
ふと振り返ると、プレハブ小屋からヤツグとユイが出てくるところだった。彼らは辺りの景色を見て目を丸くした。
「な、何が起こってるんだ?」
「うわあ、街だ! 夢か何か?」
と、ユイが首をかしげ、北野はくすりと笑って空を見上げた。
「二人の物語が生まれてるんだよ。百万人の人々の想像で」
すっきりと晴れた青い空が広がっていた。
「はあ?」
受け入れられない様子のヤツグだが、ユイは嬉しそうに左右をきょろきょろと見回している。
実際に百万人全員が想像したとは思わないが、それでも大勢の人たちが想像力を働かせたことはたしかだ。
地面はいつの間にか舗装され、電柱や標識が並んでいる。
どこかの家のカーテンが開き、室内に電気がついているのが見える。
二人の物語に、二人以外の登場人物が生まれようとしていた。そのことが北野は無性に嬉しかった。