コンビーフと野菜を挟んだホットサンドが出来上がった頃、続々と人が集まってきた。カウンター付近に立ったり、空いている席に座ったりと、それぞれが思い思いの位置に留まる。
「おう、これで全員やな」
と、リエトが確認してから日南たちを紹介した。
「まずはこっち、新しく来たお客さんたちや。よぉ分からんけど、ゲートが開いたっぽいんや」
すかさず日南はその場で立ち上がり、肩書とともに名乗った。
「探偵の日南梓です」
「助手の北野響です」
と、北野も察して腰を上げ、日南に合わせてきた。
残る西園寺も席を立ち、会釈をしつつ普通に名乗る。
「西園寺悠真です」
すると、カウンターの前に立った体格のいい少年がぴょんと跳ねるように、こちらへ一歩進み出た。
「もしかして日本人ですか!?」
「ああ、そうだ」
日南が肯定すると少年は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「オレ、総合科一年の
彼の隣にいた筋骨隆々の長髪男性が察した様子で口を開く。
「警備員の
「
カフェ店員がにこりと笑って言ったように、静と元夢は一卵性の双子のようにそっくりだった。
「魂の双子、ってことはツインソウル!?」
と、西園寺が反応し、燈実が目を輝かせる。
「まさか知ってるんですか?」
「ああ、スピリチュアルだよな。俺、オカルトとかそういうの好きなんだ」
無邪気な子どものように顔を輝かせ、燈実は二人を振り返った。
「わあ、仲間ですよ! 静さん、元夢さん!」
静と元夢は優しく見守る保護者のように、ただにこりと微笑む。笑った顔もそっくりだ。
「えーと、話進めるで」
様子を見ていたリエトが呆れ半分に口を出し、燈実がはっとして元の位置へ戻る。
「まだ紹介してへんのは、そっちの二人やったな」
リエトが視線を向けたのは金髪の少年と、水色の髪をゆるく一つ結びにした美しい女性だった。
「僕は魔法兵科一年、イニャス・ペルグランです」
少年が落ち着いた口調で自己紹介し、日南たちは会釈を返す。
「私はフィオーレ・ピントです。魔法総合科の講師をしています」
銀縁の眼鏡をかけていても分かる柔和な面立ちに、白いカーディガンを着た優しそうな人だ。
「ちなみにフィーちゃんは俺のはとこやからな」
と、リエト。まるで「近づきすぎるなよ」と、暗に警告するかのようだったが、彼自身は冗談まじりのつもりなのか、軽く笑みを浮かべている。
一方、フィオーレはかすかに苦笑しているばかりだ。
一通り自己紹介が済むと、元夢が「どうぞ、食べてください」と日南たちをうながした。
日南はありがたくホットサンドに口をつけ、リエトが話し出す。
「さっきもちょろっと話したけど、今、この世界はおかしなっとるねん。学校の敷地から外へ出られへんし、人はいなくなるし、挙句の果てに殺人事件まで起きとる。次は誰が殺されるんか、怖くて眠れへんのや」
そう言いながらも、本当に恐怖を感じているようには見えなかった。むしろどこか
「この世界は元々、どういう世界だったんだ?」
日南の問いに答えたのは燈実だった。
「こんなことになる前は、あちこちで異世界とつながるゲートが開いたり閉じたりしてたんです。なので、異世界の人たちが大勢やってきてて、オレたちもそのうちの一人なんです」
ぽつりと西園寺がつぶやく。
「異世界か」
「人間だけじゃなく獣人や妖精なんかもいて、本当にすごい多様性のある学校だったんです。ただ、来ることはできても、元の世界に戻る方法は確立されてなくって」
と、燈実はわずかに目を伏せる。
「やから、この世界には異世界人がぎょうさんおった。それらを俺らは快く迎え入れて、仲良う暮らしてたんや」
リエトの説明に北野が質問をする。
「どうして異世界の人を受け入れられたの? 抵抗はないの?」
「ああ、まったくない。というのも、その昔、この世界が危機に陥った時、異世界から来た救世主が助けてくれたんや」
話を続けながらリエトがどこか誇らしげな表情をする。
「魔法が使えるようになったんも、救世主の連れてた四大精霊のおかげでな。それ以来、異世界から来た客人はみんな、救世主の
「なるほど」
元からこの世界に暮らす人々は義理堅いらしい。それで日南たちもすんなりと受け入れられたのだと腑に落ちた。
「ほんの少し前までは、本当にみなさん、楽しく過ごしていたんですよ」
と、フィオーレが寂しそうに言う。
「それなのにある日突然、閉じ込められてしまって……」
うつむく彼女を横目に見てからリエトが説明した。
「敷地内に学生寮はあるけど、フィーちゃんたち講師は街に暮らしてたんや。それが出られなくなって、家に帰られへんようになった」
「俺たちも街でアパートを借りて暮らしてたんだけどな」
と、元夢もため息をついた。
日南は食事を進めつつ質問をする。
「何で出られなくなったか分かるか?」
「いいや、ちっとも分からへん。敷地の外側に見えない壁みたいなもんがあってな、すぐそこに街があるはずやのに、行き来できなくなってもうたんや」
「街の様子は?」
「おう、風魔法使って上から見たことあるで。けど……」
リエトが伏し目がちになって一つ息をつく。
「街にはもう誰もおらんみたいで、がらんとしてたわ。まるで
店内に重たい沈黙が訪れる。誰もがこの異常事態に動揺し、あきらめにも似た思いを抱いているようだ。
日南は北野へ視線をやった。
「なぁ、北野。どういうことだと思う?」
「うーん、見た感じ、ゆらいではないんだよね」
と、北野は答えながら自分の手元を見つめる。
「食事もちゃんと食べられるし、この物語はしっかり存在してる。作者に忘れられてないことは確実だよ」
「登場人物たちが外に出られないのは?」
「何か理由があるはずだけど、まだ分からない。人が消えた理由や、殺人事件の起きている理由も」
「そうか」
分からないことだらけの世界だ。
日南は考えるのを後回しにして、リエトへまた質問をした。
「殺人事件について教えてもらえるか? 最初はどんなだった?」