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第3話

 コンビーフと野菜を挟んだホットサンドが出来上がった頃、続々と人が集まってきた。カウンター付近に立ったり、空いている席に座ったりと、それぞれが思い思いの位置に留まる。

「おう、これで全員やな」

 と、リエトが確認してから日南たちを紹介した。

「まずはこっち、新しく来たお客さんたちや。よぉ分からんけど、ゲートが開いたっぽいんや」

 すかさず日南はその場で立ち上がり、肩書とともに名乗った。

「探偵の日南梓です」

「助手の北野響です」

 と、北野も察して腰を上げ、日南に合わせてきた。

 残る西園寺も席を立ち、会釈をしつつ普通に名乗る。

「西園寺悠真です」

 すると、カウンターの前に立った体格のいい少年がぴょんと跳ねるように、こちらへ一歩進み出た。

「もしかして日本人ですか!?」

「ああ、そうだ」

 日南が肯定すると少年は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

「オレ、総合科一年の外野燈実とのとうみです!」

 彼の隣にいた筋骨隆々の長髪男性が察した様子で口を開く。

「警備員の全並静ぜんなみせいだ」

物集女元夢もずめもとむだ。俺たちはよく似てるけど、魂が双子なんだ」

 カフェ店員がにこりと笑って言ったように、静と元夢は一卵性の双子のようにそっくりだった。

「魂の双子、ってことはツインソウル!?」

 と、西園寺が反応し、燈実が目を輝かせる。

「まさか知ってるんですか?」

「ああ、スピリチュアルだよな。俺、オカルトとかそういうの好きなんだ」

 無邪気な子どものように顔を輝かせ、燈実は二人を振り返った。

「わあ、仲間ですよ! 静さん、元夢さん!」

 静と元夢は優しく見守る保護者のように、ただにこりと微笑む。笑った顔もそっくりだ。

「えーと、話進めるで」

 様子を見ていたリエトが呆れ半分に口を出し、燈実がはっとして元の位置へ戻る。

「まだ紹介してへんのは、そっちの二人やったな」

 リエトが視線を向けたのは金髪の少年と、水色の髪をゆるく一つ結びにした美しい女性だった。

「僕は魔法兵科一年、イニャス・ペルグランです」

 少年が落ち着いた口調で自己紹介し、日南たちは会釈を返す。

「私はフィオーレ・ピントです。魔法総合科の講師をしています」

 銀縁の眼鏡をかけていても分かる柔和な面立ちに、白いカーディガンを着た優しそうな人だ。

「ちなみにフィーちゃんは俺のはとこやからな」

 と、リエト。まるで「近づきすぎるなよ」と、暗に警告するかのようだったが、彼自身は冗談まじりのつもりなのか、軽く笑みを浮かべている。

 一方、フィオーレはかすかに苦笑しているばかりだ。

 一通り自己紹介が済むと、元夢が「どうぞ、食べてください」と日南たちをうながした。

 日南はありがたくホットサンドに口をつけ、リエトが話し出す。

「さっきもちょろっと話したけど、今、この世界はおかしなっとるねん。学校の敷地から外へ出られへんし、人はいなくなるし、挙句の果てに殺人事件まで起きとる。次は誰が殺されるんか、怖くて眠れへんのや」

 そう言いながらも、本当に恐怖を感じているようには見えなかった。むしろどこか諦観ていかんの念さえ漂う。

「この世界は元々、どういう世界だったんだ?」

 日南の問いに答えたのは燈実だった。

「こんなことになる前は、あちこちで異世界とつながるゲートが開いたり閉じたりしてたんです。なので、異世界の人たちが大勢やってきてて、オレたちもそのうちの一人なんです」

 ぽつりと西園寺がつぶやく。

「異世界か」

「人間だけじゃなく獣人や妖精なんかもいて、本当にすごい多様性のある学校だったんです。ただ、来ることはできても、元の世界に戻る方法は確立されてなくって」

 と、燈実はわずかに目を伏せる。

「やから、この世界には異世界人がぎょうさんおった。それらを俺らは快く迎え入れて、仲良う暮らしてたんや」

 リエトの説明に北野が質問をする。

「どうして異世界の人を受け入れられたの? 抵抗はないの?」

「ああ、まったくない。というのも、その昔、この世界が危機に陥った時、異世界から来た救世主が助けてくれたんや」

 話を続けながらリエトがどこか誇らしげな表情をする。

「魔法が使えるようになったんも、救世主の連れてた四大精霊のおかげでな。それ以来、異世界から来た客人はみんな、救世主の末裔まつえいやと思って歓迎してるんよ」

「なるほど」

 元からこの世界に暮らす人々は義理堅いらしい。それで日南たちもすんなりと受け入れられたのだと腑に落ちた。

「ほんの少し前までは、本当にみなさん、楽しく過ごしていたんですよ」

 と、フィオーレが寂しそうに言う。

「それなのにある日突然、閉じ込められてしまって……」

 うつむく彼女を横目に見てからリエトが説明した。

「敷地内に学生寮はあるけど、フィーちゃんたち講師は街に暮らしてたんや。それが出られなくなって、家に帰られへんようになった」

「俺たちも街でアパートを借りて暮らしてたんだけどな」

 と、元夢もため息をついた。

 日南は食事を進めつつ質問をする。

「何で出られなくなったか分かるか?」

「いいや、ちっとも分からへん。敷地の外側に見えない壁みたいなもんがあってな、すぐそこに街があるはずやのに、行き来できなくなってもうたんや」

「街の様子は?」

「おう、風魔法使って上から見たことあるで。けど……」

 リエトが伏し目がちになって一つ息をつく。

「街にはもう誰もおらんみたいで、がらんとしてたわ。まるで廃墟はいきょみたいやった」

 店内に重たい沈黙が訪れる。誰もがこの異常事態に動揺し、あきらめにも似た思いを抱いているようだ。

 日南は北野へ視線をやった。

「なぁ、北野。どういうことだと思う?」

「うーん、見た感じ、ゆらいではないんだよね」

 と、北野は答えながら自分の手元を見つめる。

「食事もちゃんと食べられるし、この物語はしっかり存在してる。作者に忘れられてないことは確実だよ」

「登場人物たちが外に出られないのは?」

「何か理由があるはずだけど、まだ分からない。人が消えた理由や、殺人事件の起きている理由も」

「そうか」

 分からないことだらけの世界だ。

 日南は考えるのを後回しにして、リエトへまた質問をした。

「殺人事件について教えてもらえるか? 最初はどんなだった?」

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