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第3話「アーサーの初陣」

「ヴィヴィアン、こいつの武装は!?」


 グレムリンに近づきながら「ワイアーム」がヴィヴィアンに質問した。


戦術レーザー砲カリバーン高周波ブレードエクスカリバーの二つ。この距離ならエクスカリバーの方が有効そうね』

「分かった、エクスカリバーを装備、まずは——」


 レーダーを確認、「ワイアーム」が自機に最も近いグレムリンに視線を向けた。


『了解、ターゲットロックオン』


 セルギアによる思考リンクでターゲット指定を受け取ったヴィヴィアンが空中に指を走らせる。

 レーダー上の敵のマーカーがターゲットコンテナでハイライトされ、【ターゲットTGT】の表示が出現する。

 ターゲットとしてハイライトされたグレムリンに、アーサーが突撃した。


「うおおおおおっ!!」


 アーサーが腰に装着したエクスカリバーを抜き、構えると刀身が超高周波の交流電流を受け、高速振動する。電流と振動で赤く光る剣をグレムリンに向け、アーサーは突き進んだ。

 グレムリンも突撃してくるアーサーに向け、ビーム砲を放つが、その一撃はアーサーが横に跳んで当たらない。


「当たんねえよ!」


 そう叫びながらも「ワイアーム」はアーサーの性能に驚きを隠せないでいた。

 過去にエインセル自体は何度か操縦したことがあるが、アーサーは過去に乗ったそれらに比べて機動性も運動性も格段に上だった。


 軽く横に跳んで回避するつもりが大きく横に跳び、「ワイアーム」はなるほど、と納得した。


——これなら!


 アーサーがグレムリンのビーム砲を斜め左右に跳んで回避する。そうやってグレムリンに接近し、アーサーはエクスカリバーを上段に振りかぶった。


「食らえぇぇぇぇ!!」


 アーサーがエクスカリバーを振り下ろす。

 その刀身がグレムリンを捉え、高速振動によって与えられた圧倒的な切れ味で両断する。


「な——」


 切断する手ごたえをその手に実感したわけではないが、それでも本来なら切断するのにもっと苦労したはずだ。

 それをあっさりと切断してしまったことに、「ワイアーム」は驚きの声を上げざるに入られなかった。


 グレムリンが真っ二つになったことを最後まで見届けることなく、アーサーは後ろに跳んだ。

 ジェネレーターが破壊されたことにより、内部のエネルギーが暴走、グレムリンが爆発する。

 後ろに跳んで爆風を回避したアーサーが、次のグレムリンをターゲットに据えた。


「ヴィヴィアン、次はあいつだ!」

『了解、ターゲットロックオン』


 ヴィヴィアンが「ワイワーム」の指示を的確に把握し、ターゲットを切り替える。


「こんの、ぉっ!」


 アーサーの機動力に任せた突進と斬撃。

 グレムリンの腕部が切断され、返す刃で胴体を両断する。


「ふたつ!」


 「ワイアーム」が叫び、次のグレムリンを視認する。


「ヴィヴィアン、カリバーンに装備変更!」

『了解、装備をカリバーンに変更』


 ヴィヴィアンの復唱の直後、アーサーの左背面に搭載されていた大型のレーザー砲がアーサーの肩へと回り込み、砲身バレルを伸長させる。

 レーザー砲カリバーンの先端をグレムリンに向け、チャージを開始する。

 コクピット内では「ワイアーム」がモニターに映し出されたグレムリンを注視している。

 その視線の先で、グレムリンにターゲットコンテナが重なっていく。


『チャージ完了!』

「喰らえぇぇえぇっ!」


 「ワイアーム」の叫びと共に、カリバーンから超高出力のレーザーがグレムリンに向けて放たれた。

 荷電粒子を撃ち出すグレムリンのビーム砲とは違い、高出力の光エネルギーを発射するカリバーンは発射から着弾までほぼノータイムである。


 回避行動を判断する暇すら与えられず、グレムリンにレーザーが直撃する。

 超高出力のレーザーは易々とグレムリンの装甲を貫き、ジェネレーターを融解させた。

 爆発するグレムリン。

 それどころかレーザーはさらにその後ろにあった廃墟にも直撃し、崩壊させてしまう


「やっべ、こいつもオーバーキルだ!」


 アーサーの武装はどれもオーバースペックのものなのかよ、と思いながらも、今はそれが逆に頼もしい。

 次は、と「ワイアーム」は周囲を見回した。


 立て続けに三機の味方を失い、危機を感じたのか。

 街を蹂躙し、基地に向かいつつあったグレムリンたちは突然方向転換し、一斉に街から離れ始めた。


「逃がすか!」


 「ワイアーム」がそう叫び、離脱するグレムリンを追撃しようとする。

 しかし、それをヴィヴィアンが制止する。


『深追いは禁物よ、マスター。アーサーのエネルギーが足りない』


 ヴィヴィアンに言われ、「ワイアーム」がエネルギータンクの残量を確認すると、確かに深追いするには不安がある状態となっていた。


「やっぱテスト機だから満タンにはしてないか……!」


 悔しそうに、「ワイアーム」が遠くへ消えていくグレムリンたちを睨みつける。


『でも、マスターはこの街を守ったわ。それだけでも大金星よ』


 ヴィヴィアンが「ワイアーム」を慰める。

 「ワイアーム」が自分を目覚めさせ、アーサーを駆って街と基地の危機を救ったのは事実だった。「ワイアーム」がアーサーに乗り込まなければ、今ごろ街も基地も壊滅、アーサー事態も失われていたかもしれない。

 それが、この戦争での人類の敗北を意味することを、ヴィヴィアンは理解していた。


 だから、深追いを止めたし、「ワイアーム」マスターに寄り添うことも言う。

 グレムリンたちが撤退したことで、基地からエインセル輸送用のトレーラーと数台のジープがアーサーに向かって走ってくる。


「……どうしよ」


 咄嗟のことだったとはいえ、新型機体を強奪してしまった事実に「ワイアーム」が低く呻く。


『大丈夫よ、アーサーを動かせるのはマスターしかいないし、悪いようにはならないと思うわ』


 アーサーは、人類がこの戦争で勝利するための切り札だから。

 少なくとも、ヴィヴィアンの記憶領域メモリには、そう刻み込まれていた。

 ヴィヴィアンが「ワイアーム」の目の前に移動し、恭しく一礼する。


『改めまして、マスター。あたしはアーサー制御補助アシスタントAI「ヴィヴィアン」。今後、シルキーに代わり、マスターのサポートをさせていただくわ』

「……え? え、ちょっと待って、シルキーは?」

『シルキーはあたしのデータの一部になったわ。だからあたしはマスターのシルキーであり、アーサーを動かすための鍵でもあるの』


 ヴィヴィアンの説明に、「ワイアーム」が目を白黒させる。


「え、つまり、お前は……今後俺についてくるって言うのか!?」

『ちょっとだけ不本意だけど。でもあたしを目覚めさせたんだから、その責任は取ってよね』


 そう言い、ヴィヴィアンは「ワイアーム」の目の前でくるりと一回転した。

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