「ヴィヴィアン、こいつの武装は!?」
グレムリンに近づきながら「ワイアーム」がヴィヴィアンに質問した。
『
「分かった、エクスカリバーを装備、まずは——」
レーダーを確認、「ワイアーム」が自機に最も近いグレムリンに視線を向けた。
『了解、ターゲットロックオン』
セルギアによる思考リンクでターゲット指定を受け取ったヴィヴィアンが空中に指を走らせる。
レーダー上の敵のマーカーがターゲットコンテナでハイライトされ、【
ターゲットとしてハイライトされたグレムリンに、アーサーが突撃した。
「うおおおおおっ!!」
アーサーが腰に装着したエクスカリバーを抜き、構えると刀身が超高周波の交流電流を受け、高速振動する。電流と振動で赤く光る剣をグレムリンに向け、アーサーは突き進んだ。
グレムリンも突撃してくるアーサーに向け、ビーム砲を放つが、その一撃はアーサーが横に跳んで当たらない。
「当たんねえよ!」
そう叫びながらも「ワイアーム」はアーサーの性能に驚きを隠せないでいた。
過去にエインセル自体は何度か操縦したことがあるが、アーサーは過去に乗ったそれらに比べて機動性も運動性も格段に上だった。
軽く横に跳んで回避するつもりが大きく横に跳び、「ワイアーム」はなるほど、と納得した。
——これなら!
アーサーがグレムリンのビーム砲を斜め左右に跳んで回避する。そうやってグレムリンに接近し、アーサーはエクスカリバーを上段に振りかぶった。
「食らえぇぇぇぇ!!」
アーサーがエクスカリバーを振り下ろす。
その刀身がグレムリンを捉え、高速振動によって与えられた圧倒的な切れ味で両断する。
「な——」
切断する手ごたえをその手に実感したわけではないが、それでも本来なら切断するのにもっと苦労したはずだ。
それをあっさりと切断してしまったことに、「ワイアーム」は驚きの声を上げざるに入られなかった。
グレムリンが真っ二つになったことを最後まで見届けることなく、アーサーは後ろに跳んだ。
ジェネレーターが破壊されたことにより、内部のエネルギーが暴走、グレムリンが爆発する。
後ろに跳んで爆風を回避したアーサーが、次のグレムリンをターゲットに据えた。
「ヴィヴィアン、次はあいつだ!」
『了解、ターゲットロックオン』
ヴィヴィアンが「ワイワーム」の指示を的確に把握し、ターゲットを切り替える。
「こんの、ぉっ!」
アーサーの機動力に任せた突進と斬撃。
グレムリンの腕部が切断され、返す刃で胴体を両断する。
「ふたつ!」
「ワイアーム」が叫び、次のグレムリンを視認する。
「ヴィヴィアン、カリバーンに装備変更!」
『了解、装備をカリバーンに変更』
ヴィヴィアンの復唱の直後、アーサーの左背面に搭載されていた大型のレーザー砲がアーサーの肩へと回り込み、
コクピット内では「ワイアーム」がモニターに映し出されたグレムリンを注視している。
その視線の先で、グレムリンにターゲットコンテナが重なっていく。
『チャージ完了!』
「喰らえぇぇえぇっ!」
「ワイアーム」の叫びと共に、カリバーンから超高出力のレーザーがグレムリンに向けて放たれた。
荷電粒子を撃ち出すグレムリンのビーム砲とは違い、高出力の光エネルギーを発射するカリバーンは発射から着弾までほぼノータイムである。
回避行動を判断する暇すら与えられず、グレムリンにレーザーが直撃する。
超高出力のレーザーは易々とグレムリンの装甲を貫き、ジェネレーターを融解させた。
爆発するグレムリン。
それどころかレーザーはさらにその後ろにあった廃墟にも直撃し、崩壊させてしまう
「やっべ、こいつもオーバーキルだ!」
アーサーの武装はどれもオーバースペックのものなのかよ、と思いながらも、今はそれが逆に頼もしい。
次は、と「ワイアーム」は周囲を見回した。
立て続けに三機の味方を失い、危機を感じたのか。
街を蹂躙し、基地に向かいつつあったグレムリンたちは突然方向転換し、一斉に街から離れ始めた。
「逃がすか!」
「ワイアーム」がそう叫び、離脱するグレムリンを追撃しようとする。
しかし、それをヴィヴィアンが制止する。
『深追いは禁物よ、マスター。アーサーのエネルギーが足りない』
ヴィヴィアンに言われ、「ワイアーム」がエネルギータンクの残量を確認すると、確かに深追いするには不安がある状態となっていた。
「やっぱテスト機だから満タンにはしてないか……!」
悔しそうに、「ワイアーム」が遠くへ消えていくグレムリンたちを睨みつける。
『でも、マスターはこの街を守ったわ。それだけでも大金星よ』
ヴィヴィアンが「ワイアーム」を慰める。
「ワイアーム」が自分を目覚めさせ、アーサーを駆って街と基地の危機を救ったのは事実だった。「ワイアーム」がアーサーに乗り込まなければ、今ごろ街も基地も壊滅、アーサー事態も失われていたかもしれない。
それが、この戦争での人類の敗北を意味することを、ヴィヴィアンは理解していた。
だから、深追いを止めたし、
グレムリンたちが撤退したことで、基地からエインセル輸送用のトレーラーと数台のジープがアーサーに向かって走ってくる。
「……どうしよ」
咄嗟のことだったとはいえ、新型機体を強奪してしまった事実に「ワイアーム」が低く呻く。
『大丈夫よ、アーサーを動かせるのはマスターしかいないし、悪いようにはならないと思うわ』
アーサーは、人類がこの戦争で勝利するための切り札だから。
少なくとも、ヴィヴィアンの
ヴィヴィアンが「ワイアーム」の目の前に移動し、恭しく一礼する。
『改めまして、マスター。あたしはアーサー制御補助アシスタントAI「ヴィヴィアン」。今後、シルキーに代わり、マスターのサポートをさせていただくわ』
「……え? え、ちょっと待って、シルキーは?」
『シルキーはあたしのデータの一部になったわ。だからあたしはマスターのシルキーであり、アーサーを動かすための鍵でもあるの』
ヴィヴィアンの説明に、「ワイアーム」が目を白黒させる。
「え、つまり、お前は……今後俺についてくるって言うのか!?」
『ちょっとだけ不本意だけど。でもあたしを目覚めさせたんだから、その責任は取ってよね』
そう言い、ヴィヴィアンは「ワイアーム」の目の前でくるりと一回転した。