我々が用意したC-4爆薬を八雲が爆破したことによって40人程の命が奪われ、一班との通信はノイズとともに完全に途絶えた。
薄暗い室内は息を殺すような静かさとは裏腹に機械の電子音だけがけたたましく音を奏でていた。
「……不測の事態は起こったがC-4は予定通り起爆された。二班は事後処理に、三班は引き続き封鎖と誘導、折を見て現場に引き継げ。その後は、各班ごとにすみやかに撤収」
しばらく言葉を生み出させずにいた頭を強制的に動かし、俺はこれからの指示を出す。
「二班、了解」
「三班、了解」
強制的に動かした頭だったが、まだ十分に機能していないようで俺は大事な指示を出し忘れていた。
「二班、聞こえるか?」
「こちら二班、どうぞ」
「一班の死体は跡形も残さないよう慎重に回収しろ。死体は可能な限り現状を維持」
「……二班、了解」
二班からの応答に少し躊躇いがあったように感じた。
たしか、アルファー1とベータ1は同期だったか……
そんな考えが頭によぎった時には、既に二班の各隊員のカメラから届けられている映像は爆破された3年3組付近まで来ていた。
「二班、現着。これより事後処理に入る」
爆風によって吹き飛んだ教室の扉はガラスの部分は割れ、くの字に折れ曲がっていた。
二班の隊員が教室の中へと入っていく。
照明や窓といったガラス物は全て粉々に吹き飛び、机や椅子などで原型を留めている物など皆無だった。
天井は大部分が剥がれ落ちており、所々で電気系統のコードが火花を散らしながら垂れ下がっている。
青空がよく見える真っ昼間にも関わらず教室内は暗く、窓があったと思われる方向からだけ白々とした嫌に眩しい光が差しこんでいた。
モニター越しに見ている映像を軽く一瞥しただけでは、40人程の死体は見当たらない。
教室には誰もいなかったのではと錯覚してしまう。
だが、現実はそうではない。
よく見れば、人の一部らしきものが辺り一面に広がっている。
人としての形ではないため、死体が見当たらないという錯覚を起こしたわけだ。
二班の各隊員は一班の死体の回収と生存者がいないかを確認する。
大きな瓦礫を持ち上げた隊員の映像から、他と比べて綺麗に人の形を保った者が2人、瓦礫の下敷きになっているのが映る。
その映像元を確認するとベータ2からのカメラ映像であった。
ベータ2は2人のうち1人を守るように覆いかぶさっていた者の襟首を掴んで持ち上げ、床にドスンと落とす。
落とされた者はピクリとも動かず、既に息絶えていることが分かる。
もう1人の方も同じようにベータ2は持ち上げて床に落とした。
「コヒュッ」
床に落とされた衝撃によってか、口元から息が抜けるような音がした。
……まだ生きているようだ。
「こちら、ベータ2。生存者を発見」
「分かった。こちらも映像から確認した。予定通り事後処理に移れ」
「了解」
ベータ2は装備している短機関銃のMP5Fを構えて、まだ息があった者に躊躇なく数発撃ち込んだ。
消えかけていた命の灯は完全に光を失った。
「ベータ1より本部。一班の回収及び事後処理が完了」
「了解した。二班は速やかに撤収」
「二班、了解」
「本部から三班、状況を報告せよ」
「こちら、三班。間もなく現場への引継ぎが完了」
「よし、三班も引継ぎが終わり次第撤収だ」
「三班、了解」
通信を切った俺は、広げた風呂敷をどうにか畳めた安堵とも言えないため息を漏らす。
「これが俺の最後の仕事になるとはな」
頭を抱えた大臣達を蔑んだ目で見ながら、俺は自嘲気味に呟いた。