突発性脳死現象を引き起こすことが出来る能力を持った人間。
いつからこの世界はそんな漫画やアニメみたいな話が現実化していたのだろう?
「そんなのまるで……超能力者みたいじゃないですか」
「フッ、超能力者か。確かに超能力者と言えば超能力者だな」
僕のストレートな感想に榊原大臣は笑って言った。
「そうですね。伊瀬さんが彼らのことを超能力者みたいだと思うのも無理はありませんね。ですが、残念ながら伊瀬さんが想像している超能力者よりもずっと彼らの能力は見た目も中身も地味なものです」
正直に言えば、ちょっと期待してしまった僕の心を見透かしたかのように早乙女さんが言った。
それに、落ち着いて考えればその超能力者は人を殺している犯罪者なのだ。
「例の力を除けば我々と何ら変わりはないからな」
榊原大臣はつまらなそうに言った。
「つまるところ、僕はその突発性脳死現象を引き起こすことが出来る人達を捕まえるためのお手伝いをすれば宜しいのでしょうか?」
「それが可能であることが一番望ましいことなのですが、現状それは叶いません」
早乙女さんは肩をすくめて言った。
「どういうことですか?」
「そもそも突発性脳死現象は彼らの能力を使用する過程で発生する副産物的な現象に過ぎないのです」
「突発性脳死現象を引き起こすことを目的とした能力では無いということですか?」
僕は自分の頭を整理するように言った。
「その通りです。彼らの能力の最大の作用は他者と入れ替わることです」
?
さすがにもう頭が追い付かない。
僕の頭は?という記号でパンパンに埋め尽くされてしまった。
「入れ替わるって……あの男女の体が入れ替わっちゃうやつとかの入れ替わるですか!?」
「はい。その認識で概ね問題無いかと思います。我々はこの入れ替わりという現象のことを
「マイグレーションですか……」
聞き慣れない単語だった。
少なくとも僕が持っている英単語帳には載っていなかったと思う。
「日本語訳にすると移住、移行、乗り換えなどのような意味だったはずだ。全く、日本人なのだから日本語で呼称すれば良いものの。どこかの愚か者が英語の方が恰好が良いとでも思ったんだろうな」
高校生の僕には意味が分からないと思ったのか榊原大臣が教えてくれた。
まぁ、榊原大臣はこの名称をお気に召していない様子だけど……
「大臣のおっしゃる通りマイグレーションという呼称の由来は彼らが他者の体、意識に移り行くことからきています。そして、マイグレーションを引き起こす能力を持った者達を
突発性脳死現象、マイグレーション、マイグレーター……
ここまでの話を聞いて僕はだんだんと話が見えてきた。
「つまり、マイグレーターがマイグレーションを行った際に発生するのが突発性脳死現象だということですか?」
「常にとは言えませんが、伊瀬さんのご推察の通りです」
さっきから感じていたのだが、早乙女さんの発言はどことなく含みがあるように感じられる。
「常にとは言えないって、どうしてですか?」
そう僕は聞いてみた。
「それは……」
そこまで言って黙ってしまった早乙女さんは目線で榊原大臣に指示を仰いだ。
「構わない。続けたまえ」
榊原大臣がそう言うと、早乙女さんは話を続けてくれた。
「それはマイグレーターに成ってからどれぐらい経っているのかで変わるためです。簡単に言えば、マイグレーションをどれだけ使いこなせているかどうかは使用練度が大きく影響するということです」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! マイグレーターに成るってどういうことですか!? マイグレーターって成るものなんですか!? なんかこう生まれつきマイグレーションを起こせる能力を持っていたとかじゃなくてですか!?」
てっきり僕は、突発性脳死現象の原因として言われていた先天性のものだということは本当だと思っていた。
そうでなくとも、他者と入れ替わるなんていう特殊な能力が生まれつきではなく、後から獲得出来る能力であるなんて考えもしなかった。
「マイグレーターという存在は先天的に成る者ではなく、後天的に成る者です。そのためマイグレーターにいつ成ったのかによって個人差はありますが能力が大きく変わります」
「ゲームやスポーツみたいに始めたての初心者と練習を積み重ねてきた経験者の実力に大きく差があるのと同じということでしょうか?」
結構良い例えが出来たんじゃないかなと思いながら僕は言った。
「ええ、そうです。マイグレーターも同じように成りたての人の場合は自分がマイグレーションが使えるという自覚すら無いことが多く、自覚したとしても上手く扱うことが出来ません。反対に、マイグレーターに成ってから何年も経っている場合の人だと多種多様にマイグレーションを使いこなし、人によっては特性のようなものが発現することもあるようです」
「なるほど。マイグレーションの扱いにはどのくらいの差が出るんですか?」
「そうですね、もう少し具体的に説明しましょうか」
早乙女さんは一息ついてから、再び口を開いて話し始めた。