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第19話 真昼の午後の惨劇

 光がまぶしい。森林通りは目もくらむようなデコレーションがされ、さながら通り全体がクリスマスツリーのようだった。

 通行規制が取られていたので、Gは途中でエレカを乗り捨てる。そして参加者が集まっている方向へと、足を速めた。姿が見えたので、彼は最寄りのビルの陰に隠れた。

 彼はピアスに手を触れた。下部構成員への通信用のそれは、マーティンの発覚寸前に活躍していた。

 Gは放送局に居るはずの下部構成員に現在の状況を訊ね、軽い指示を加えた。

 それまでに起こり得る騒乱は、「成功するかもしれない」もののに対し、現在進行しているのは、今度は「絶対成功しない」騒乱である。対処が変わってくるのだ。

 そして後者の方が、下手すると「飛ぶ**」の目的としている「騒乱を目的とする騒乱」としては相応しいのだ。


「とにかく」


 彼は部下に伝える。


「絶対に広場から来た電波を飛ばさせるな。敵を探し、一定時間の電源を飛ばせ。放送機械自体は一応守れ。だが占拠されるようなら、壊せ」


 端的に命令を下すと、通信を切って、彼はふう、と深呼吸した。

 さて部下がどの位動いてくれるかは判らないが、とりあえずは信用せねばなるまい。自分のこれからの動きは、その条件の上に成り立つのだ。    

 この場に居る自分のできることは。

 それを考えた時だった。


 沈思黙考は、それをできる条件下にのみ成立する。

 少なくとも、上から機関銃を撃たれる状況では成立しない!


 ばりばりと音を立てて、雨あられと降り注ぐ銃弾を彼は反射的に避ける。どうやら敵はビルの中か、上に居るらしい。

 だが先日の敵よりは、実に敵らしい。

 僅かな日差しの下に隠れて、彼は銃の弾丸ジャケットを交換した。降りてくる、と彼は感じた。そしてその間に、自分の所持している武器を数える。一つ、二つ……ここで使える武器は?

 ぱりん、と音がして、彼が背をついていたビルの、二階と三階の間の踊り場のガラスが降ってきた。

 銃を撃った。何発かが砕け落ちるガラスに当たり、さらに破片を周囲に飛び散らせる。

 そこから暗殺者は飛び降りた。

 よほど緩衝材が使われているのだろう。ユーリこと「飛ぶ**」の戦闘隊長は、落下の衝撃などまるで感じていないように平然と微笑んでいた。唇が何かをつぶやいている。

 やっと見つけた、と言ったように、Gには感じられた。

 間髪入れずに、ユーリは手にしていた機関銃をその場に撃ちまくる。それでガラスも割ったらしく、一瞬その破片が弾丸に混じって空を切った。まずい、と彼は考えた。分の悪さはまるで変化していないじゃないか。


 条件を限定するんだよ。


 中佐の投げやりな言葉が不意に頭に走る。

 Gはボタンをまた一つ引きちぎると、その場に投げた。

 閃光弾だった。無論現在彼は遮光ゴーグルを付けていないのだから、見えないのは同様なのだ。目を閉じて、その瞬間彼は、ユーリの足に組み付いた。

 あ、と高い声がその場に飛んだ。

 高所から飛び降りても平気な足が、バランスを崩して、その場に崩れ落ちた。Gは薄目を開けながら、機関銃に手をかけた。もみ合いの体制になる。ぐい、とうつ伏せになった腰を膝で押さえる。

 だが相手は下部構成員ではなかった。

 ユーリは銃を持っている状態ではない、と悟ると、何の未練もなくそれを手放した。

 何処に仕込んであったのか、セラミックナイフを左手に持ち、ぐい、と手を回す。自分を押さえつけている相手の足に刺す。

 Gは股に走る痛みに、ぐ、と声を立てる。その拍子に膝から力が抜けた。

 隙をついてユーリは、うつ伏せにされていた身体を反転させ、華奢なくせに力強い足で彼を蹴った。

 ずいぶんな力だ、と足の痛み半分、蹴られた脇腹の痛み半分、でGは思う。

 だがとりあえず銃は渡す訳にはいかない。Gはまだ転がっている銃を思いきり蹴った。他にも無論持っていそうな雰囲気は十分だが、一番対処のしにくい武器には退場を願うのは当然だろう。


「―――ふん、なかなかやるじゃない」


 相手の声が耳に入る。ユーリは再びセラミックナイフを手にしていた。だが今度はそれは彼の手にはない。あるのは。

 彼は拳銃を取り出した。何発かの銃弾が、目の前の敵に向かって放たれる。だが敵は余裕の顔で、それを避けて走る。一方Gは、刺された足が痛むのに気を取られていた。そしてその一瞬のせいで、相手の位置を見失う。


 何処だ?


 気配を捜す。だがそれで簡単に見つけられる奴だったら、あの若さで戦闘隊長などやってなどいないだろう。

 足にずきん、と痛みが走った。彼はう、と軽くうめいてその場に沈む。地面に手をついた彼の手に、何かが当たった。

 その時だった。


「遅い!」


 立ち上がるが遅かった。ユーリの長く伸びたセラミックナイフが、自分を斜めに強く深く切り裂くのを、Gは感じた。

 身体が、地面に叩き付けられようとするのが判る。落下感。だが。

 Gは、落ちる寸前に、手にしたものを、小さく鋭くひらめかせた。

 鋭いガラスの破片だった。

 ユーリが壊し、路上に散らしたガラスの破片だった。

 自分の身体が地面に直撃する寸前、それがユーリの首の真ん中に命中するのが、確かに見えた。

 信じられない、という表情で、「飛ぶ**」の戦闘隊長はその場にゆっくりと崩れ落ちていった。


 殺人人形と同じ所だな。


 彼は何となくそんなことを考える。だが殺人人形とは違い、ぱっくりと開いた戦闘隊長の首からは、とりどりの色のケーブルではなく、一色で鮮やかな血が溢れるだけだった。

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