光がまぶしい。森林通りは目もくらむようなデコレーションがされ、さながら通り全体がクリスマスツリーのようだった。
通行規制が取られていたので、Gは途中でエレカを乗り捨てる。そして参加者が集まっている方向へと、足を速めた。姿が見えたので、彼は最寄りのビルの陰に隠れる。
ピアスに手を触れる。下部構成員への通信用のそれは、マーティンの発覚寸前に活躍していた。
放送局に居るはずの下部構成員に現在の状況を訊ね、軽い指示を加える。
それまでに起こり得る騒乱は、「成功するかもしれない」ものであったのに対し、現在進行しているのは、今度は「絶対成功しない」騒乱である。対処が変わってくるのだ。
そして後者の方が、下手すると「飛ぶ**」の目的としている「騒乱を目的とする騒乱」としては相応しい。
「とにかく」
彼は部下に伝える。
「絶対に広場から来た電波を飛ばさせるな。敵を探し、一定時間の電源を飛ばせ。放送機械自体は一応守れ。だが占拠されるようなら、壊せ」
端的に命令を下すと通信を切り、彼はふう、と深呼吸した。
さて部下がどの位動いてくれるかは判らないが、とりあえずは信用せねばなるまい。自分のこれからの動きは、その条件の上に成り立つのだ。
――この場に居る自分のできることは。
それを考えた時だった。
沈思黙考は、それをできる条件下にのみ成立する。
少なくとも、上から機関銃を撃たれる状況では成立しない!
ばりばりと音を立てて、雨あられと降り注ぐ銃弾を彼は反射的に避ける。どうやら敵はビルの中か、上に居るらしい。
だが先日の敵よりは、実に敵らしい。
僅かな日差しの下に隠れつつ、銃の弾丸ジャケットを交換する。
降りてくる、と彼は感じた。そしてその間に、自分の所持している武器を数える。一つ、二つ……ここで使える武器は?
ぱりん、と音がして、彼が背をついていたビルの、二階と三階の間の踊り場のガラスが降ってきた。
銃を撃つ。何発かが砕け落ちるガラスに当たり、さらに破片を周囲に飛び散らせる。
そこから暗殺者が飛び降りた。
よほど緩衝材が使われているのだろう。ユーリこと「飛ぶ**」の戦闘隊長は、落下の衝撃などまるで感じていないように平然と微笑んでいた。唇が何かをつぶやいている。
やっと見つけた、と言ったように、Gには感じられた。
間髪入れずに、ユーリは手にしていた機関銃をその場に撃ちまくる。それでガラスをも割ったのか、一瞬その破片が弾丸に混じって空を切った。
まずい、と彼は考える。分の悪さはまるで変化していないじゃないか。
――条件を限定するんだよ。
中佐の投げやりな言葉が不意に頭に走る。
Gはボタンをまた一つ引きちぎると、その場に投げる。閃光弾だ。
目を閉じ、ユーリの足に組み付く。あ、と高い声がその場に飛んだ。
高所から飛び降りても平気な足が、バランスを崩して、その場に崩れ落ちた。
Gは薄目を開けながら、機関銃に手をかける。もみ合いの体勢、ぐい、とうつ伏せになった腰を膝で押さえる。
だが相手は下部構成員ではない。
銃を持っている状態ではない、と悟ったのか、ユーリは何の未練もなくそれを手放した。
そして何処に仕込んであったのか、セラミックナイフを左手に持ち、ぐい、と手を回し、自分を押さえつけている相手の足に刺す。
Gは股に走る痛みに、ぐ、と声を立てた。その拍子に膝から力が抜ける。
隙をついてユーリは、うつ伏せにされていた身体を反転させた。そして華奢な割に力強い足で彼を蹴る。
――ずいぶんな力だ。
足の痛み半分、蹴られた脇腹の痛み半分、でGは思う。
だがとりあえず銃は渡す訳にはいかない。Gはまだ転がっている銃を思いきり蹴る。他にも武器を持っていそうな雰囲気は十分だが、一番対処のしにくいものには退場を願うのは当然だろう。
「―――ふん、なかなかやるじゃない」
相手の声が耳に入る。ユーリは再びセラミックナイフを手にしている。
Gは拳銃を取り出す。何発かの銃弾が、目の前の敵に向かって放たれる。だが敵は余裕の顔で、それを避けていく。
刺された足が痛む。そのせいで一瞬気を取られる。だがその一瞬のせいで、相手の位置を見失う。
――何処だ?
気配を捜す。だがそれで簡単に見つけられる奴だったら、あの若さで戦闘隊長などやってなどいないだろう。
足にずきん、と痛みが走る。彼はう、と軽くうめいてその場に沈む。地面に手をついた彼の手に、何かが当たる。
その時だった。
「遅い!」
立ち上がるが遅かった。
ユーリの長く伸びたセラミックナイフが、自分を斜めに強く深く切り裂くのを、Gは感じる。
身体が、地面に叩き付けられようとするのが判る。落下感。だが。
Gは、落ちる寸前に、手にしたものを、小さく鋭くひらめかせた。
鋭いガラスの破片だった。ユーリが壊し、路上に散らしたガラスの破片である。
自分の身体が地面に直撃する寸前、それがユーリの首の真ん中に命中するのが、確かに見えた。
信じられない、という表情で、「飛ぶ**」の戦闘隊長はその場にゆっくりと崩れ落ちていく。
――殺人人形と同じ所だな。
彼は何となくそんなことを考える。だが殺人人形とは違い、ぱっくりと開いた戦闘隊長の首からは、とりどりの色のケーブルではなく、一色で鮮やかな血が溢れるだけだった。