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第15話 「手軽に持ち運びできる武器」がいっぱい。

 時間が、迫っていた。


「……そこに居るのは誰?」


 ユーリの声に、その時Gははっとして振り向いた。そこには少女めいた顔をした青年が立っていた。


「……やあユーリ」

「小道具の部屋に何か用事?」

「うん、衣装に使おうと思ってスカーフが何かないかな、と」

「スカーフ? ああ、それなら僕も結構持ってるから、貸してあげようか?」


 ありがとう、とGは答えた。

 彼らの集まりに何かと場所を提供している伯爵の館内の一室は、小道具の部屋とされていた。大道具や背景の必要のない劇において、そこは唯一の関係資材置き場でもある。


「結構親切なんだね」

「結構? ふん、別に僕は親切じゃあないさ」


 ユーリは肩をすくめる。


「別に僕はこの劇がどうなったっていいんだ。ただマーチャスが結構乗り気だから付き合ってるだけ」

「その割には熱心だね」

「君こそ」


 今度はGが肩をすくめる番だった。

 どうにもこの少年にも少女にも見えそうな程の青年は、食えない存在だった。物腰も優雅だし、言葉も完璧に、それは上流階級のものだった。だが性格はそれだけで済まされないようである。


「でも今回一番乗り気なのは、キャプテン・マーティンだね」

「マーティンが?」

「奴はね、この類の計画を立てて、自分を中心に成功させるのが好きな人種なの」

「つまりは、リーダー向き、ということ?」


 違う違う、とユーリは首を大きく振った。


「リーダー向き、ってのは天性のものを指すでしょ?彼のは違うね。リーダーと認められたい人間なの、彼は」

「認められたい」

「本当のリーダーなんてのはさ、サンド、別にそんなコトいちいち起こさなくても、自然にやる行動そのものにみんなついていくんじゃない。だけど彼は違うね。常日頃から、そういう目で見られるにはどうすればいいかとか考えてるんだよ」

「……へえ」

「信じる? 僕の言うこと」


 ユーリは腰に手を当てて、首を軽く傾げた。


「面白い話だとは思うよ」

「ふーん…… あとは何か?」

「あ、派手なアクセサリとか……」

「アクセサリか…… だったらこの辺に確か……」


 ユーリは飾り棚の上に置かれていた小さな引き出しを開けた。だがそれから動く気配がないので、彼に背を向けて捜し物をしていたGは、声をかけた。


「あったのかい?」

「あったのはあったけど……」


 何だよ、と言いながら、彼は引き出しを開けたまま硬直しているようなユーリのそばに寄った。彼は、何やらひどく困惑したような表情で、開けた引き出しの中を指さしていた。


「この中?」


 飴色の、上等の細工が施してあるそのこぢんまりとした引き出しを彼はつられるようにのぞき込む。

 中で何かがきらり、と光った。何のアクセサリだろう、と彼は思い――― そしてそれが本当に、付属品であることに気付いた。

 Gは引き出しの中から、一杯に詰まっていた小型の手榴弾を取り出した。


「何だってこんなもの入ってるんだよ!」


 ユーリの声も、普段よりトーンが上がっている。


「……ねえユーリ、この引き出しって以前からあった?」

「と、思うよ? 詳しいことは僕だって知らないもの」


 そうか、とGはつぶやいた。


「何してんの?」

「他にも何かあるかも知れないから」

「止してよ!」


 ユーリの制止は丁重に無視して、Gはさほど明るくない部屋の中、あちらこちらの物を動かし始めた。

 部屋中を、何が入っているのかかはっきりしない箱が埋め尽くしている。

 妙だ、と彼は思っていた。小道具と言っても、はっきり言えば、大して使うものなと無いのだ。とすれば、そこにあるものは、名目は小道具であっても内容がそうであるとは限らない。

 どん、と何かの拍子で爪先が、床に置いてあった一つの箱を蹴った。その固い感触に彼は片方の眉を上げ、もう一度、確かめるように、それを強く蹴った。


「サンド!」


 ユーリの声が飛ぶ。Gはその声など構わないように、その箱の口を閉じていたテープを一気に剥がした。あ、とユーリの声が飛んだ。やっぱりな、と彼は思う。

 箱の中には、大量の拳銃が入っていた。Gはこれだけではないだろう、とそばにあった箱を次々に開け始めた。銃だけではない。手榴弾、セラミックナイフ、レーザーナイフ、機関銃など、「手軽に持ち運びできる武器」がその中には満ち満ちていた。


「ど、どうするの、一体…… 何でこんなものが一杯あるんだよ!」

「とにかく伯爵に相談しなくちゃな……」


 Gはつぶやいた。何はともあれ、館の持ち主に相談するのが通例なのだ。一般常識としては。


「このままにしとくの?」

「そうだな……」


 せめてこの軽そうな一つだけでも、と彼は一つの箱を持ち上げた。その時だった。

 その奥に置いてあったらしい赤いランプが点灯した。と、同時に、勢いよくベルが鳴り響いた。

 オーソドックスなベルの音だ、とGはその音を耳にしながら思っていた。目覚ましに使えばさぞ有効だろう、と。

 ばたばた、とそのベルの音の陰から、足音が聞こえてくる。やっぱりな、とGはそれがまっすぐこの部屋を目指してくるのを確信していた。

 そして彼は、このあまり明るくない部屋でもやや泣きそうな顔になっている少年とも少女とも言えるような顔をしている青年の肩に手を置き、強い声で命じた。


「君はすぐこの部屋から出るんだ」

「何」

「早く。急がないと、奴らが来る!」

「奴らって何だよ!」


 泣き声に近い言葉を丁重に無視すると、どん、とGは次の部屋に面した扉から、ユーリを押し出した。

 そして数秒後、ユーリが開けた廊下に面した扉から、数名の青年が入ってきた。先頭に立っている青年は、Gに向かって悠然と言った。


「やあ、侵入者君」


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