「つまり、初めっから判っていたんだなお前? この子自体が『文書』だということを」
「まーね。だけどお前にそんなこと知らせたら、お前に下心が入る。それじゃあ困ったからね。だからそれが一つ。それとあと、お前に注意を引きつけさせておいて、他の計画を進行させていた」
階段室で合流したGとキムは、建物の出口付近で銃撃戦を演じていた。
物が一つ壊れるごとに、不協和音が響きわたる。
ひどい音だ、と彼は思う。
下手に快適なように絨毯が敷き詰められているから、音響がこもるんだ、と妙に彼は冷静に考えていた。
その中で、ほとんど罵りあいのような声で二人は状況を説明し、されている。
「何の計画だ?」
「多少はこの子にも聞いたろ?『泡』の本番さ。あっちのあれは間違いで、失敗だった」
「都市を閉鎖して邪魔者を排除するって?」
「そう。だけどその際に無関係市民を巻き込んではいけないね。ウチの信用問題に関わる」
Gの中では信用問題という言葉が果たしてあの集団に似合うのかどうか判らなかったし、既に巻き込んでいるような気もする。
だがそれを見透かしたように、キムはさらりと言った。
「言っておくがな、こんな惑星にやってくる連中ってのは、無関係な奴なんて殆どいないんだよ」
ああ、と彼は苦々しげにうなづく。
「判っている。おまけに
「ひどいものなのよ、どう転んでもな」
ふん、とGはそれでも少女をかばいながら、キムから渡された銃を撃ちまくる。
彼の一点集中力は並外れていた。狙いはまず外れない。
と、電子音が耳に飛び込む。心臓に悪い音だ、とGは思う。
はい、とキムは耳に付けていた通信機に向かって答える。二言三言、短い言葉を交わしていたと思うと、小さくうなづいた。
「了解」
エネルギーホルダーの交換を手早くしながら、Gは訊ねた。
「上からか?」
「ああ」
「何って言ってた?」
「脱出するから急げって。あっちの作戦も完了したようだ」
「脱出!」
小さく叫んだ時、頭上を弾丸がかすめて行った。
「これやる」
キムは何処から取り出したのか、簡易遮光ゴーグルを取り出すと、一つ彼に投げる。
「この子には」
「あたしは平気よ」
少女は無邪気に答えた。時々忘れそうになるのだ。これが機械ということを。
「発光弾は十秒間効果がある。その間にそこにあるエレカに取り付けて」
了解、と彼はうなづいた。
キムはそれを確認すると、ポケットの中から、先程Gが爆破に使ったようなゲーム用の玉に似たものを取り出し、投げつける。次の瞬間、目を開けられない程の光が辺りを包んだ。
遮光ゴーグルがなければ、目を焼かれてしばらく使いものにならなくなるはずだ。
攻撃が止む。待ち望んでいた瞬間だった。
三人は出口に止まっていたエレカの扉を両側から、切取線に添って焼き切る。がたん、と落ちた扉が音を立てて転がった。
すぐさま入り込むと、中の計器に異常がないかをキムがチェックする。だが途端にち、という舌打ちの音が起こる。
「どうした?」
計器の一つをキムは指さした。
「主燃料が切れてる」
「ガス欠か!?」
「だったら副燃料の方に切り替えればいいわ!」
間髪入れずに少女が叫んだ。
「あるのか?」
「ちょっと待って」
少女型データバンクは手を伸ばして、エレカの操作盤を器用に操ると、副燃料の位置を確認する。
「……あ!」
「どうした?」
「自動転換機能が死んでる。外からじゃないと……」
「危険だ!」
もう発光弾の光は消えていた。
「大丈夫よ、そう簡単にあの光でやられた目は」
少女はそこまで言うと、ぴょん、と外へ出る。
サイドボディのボタンを押すと、外部コントローラーの外板を力任せに剥がす。そしてその中の基盤や配線を注意深く見ながら、彼女は器用に機能を回復させていく。
それを見ながら、Gは建物の方に注意を払う。
確かにそうそう簡単に目は復活する訳ではないけど。
「お」
キムはパネルに次第に充填していく燃料を確認する。
声が陽気に裏返った。
「OK、これなら行ける」
「ルビイ!」
「待って、今フタを……」
ぱたん、という音がGの耳に届いた時だった。
――目の前に、光の線が走る。
少女の身体が、3m程、飛んだ。
「ルビイ!」
反射的に彼は銃を撃っていた。