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第69話

 ドゥーガルガンを狩る。


 そのために私たちは存在する。


 存在を賭ける私と、存在両方を賭ける私の主。


 死なない戦争ごっこの裏で、今日も殺し合いは続く。


「ねぇねぇ。もっともっと、殺意を剥き出しにしてよ!」


 市街地フィールドにこだまする甲高い声音。


 銃声の最中を可憐に駆けるブロンドヘアの少女こそ、私の主だ。


 少し離れた高台からスコープの端で後ろ姿を捉え、彼女の先に待ち構える敵を据える。


「のんのんよあかり。待て」

「はぁい」


 不気味に、蕩けた声で私は答える。


 すると両手に銀色の光沢が眩しいハンドガン『M92X』を携えたがクロスヘアに飛び込んできて、合わせていた敵を一撃で倒す。


「こいつじゃないわね。ドゥーガルガン持ちは見えそう?」

「アトラぁ、どぉ?」

「いることはいるけど隠れてやがる。スナイパーだ」


 ドゥーガルガン同士は互いに知覚しあう。けれど詳しい位置までは分からない。


 ならと、私は立ち上がった。須臾、弾丸の気配を見つけて頭をズラす。


 殺意がオーラになって伝わる。撃ってきた方角で大体の位置は掴んだ。


「あそこ」


 指を指すと、主が猛烈な勢いで飛び込んで近接戦に発展した。


 狙った時点で勝負は見えている。不敵に笑ってスコープでその様子をじっと覗くと、


「この世に思い残すことはある?」


 主は相手の四肢を奪って馬乗りで語りかける。


 敗北必至のマスターは表情を溶かしたように崩し、涙と鼻水を混ぜながら懇願する。


「やだ・・・・・・殺さないで!」


 ぐちゃぐちゃの顔。それを一つの絵として栄えさせる主の言葉と猟奇的な笑み。


「ダーメ。マスターが減らないでしょ?」

「もうこんなことしないから! マスターを殺さないから見逃して! お願い!」

「あら? 何か勘違いしてる? 私は何も貴方を断罪するために倒すんじゃないわよ?」


 疑問符が声になって聞こえる。それへ主は丁寧に回答する。


「私は殺し合うのが好きでマスターを倒してるの。それが私の全てだし、サヴァイブファイトの主もそれを望んでる。最後に見捨てられても、満足出来るまで殺せれば私はそれでいいの」


 主の考えは深い。私も同じ気持ちだし、主とこの身を共にする覚悟でいる。


 絶望が顔の彫りを深くする。少女はまるで死神でも見ているような目で主を据える。


 あんな顔で私も・・・・・・。しかしそこへ邪魔な銃声が入る。


「あぁもう。邪魔するな!」


 外野の蠅がうるさく銃声を掻き鳴らす。牽制のつもりだが、私を苛立たせるノイズだ。


 二度とその手にエアソフトガンを持てなくしてやる。私は両腕へ照準して弾丸を放った。


 瞬く間に相手は腕を奪われ、銃が使えない身体になる。だけど、これだけでは足りない。


 ノイズうるさい。失せろ失せろ失せろ。


 そんな呪詛は弾丸となって、すでに奪った腕とまだ健在な両足に幾数の弾丸を叩き込む。


 動けなくなっても絶え間なく続く射撃。弾丸が尽きるまで、終わりの見えないそれはまさに拷問に等しい。


 そして主も私も仕上げに掛かる。


「ラギィー、レスアート」


 両手のハンドガンから神々しい光が発し、二人が一つの銃に変わる。


 折りたたみ式のフォールディングストックに艶のない黒の塗装のサブマシンガン。ベレッタPMXに変わったその銃の口で、主は眉間を射貫いた。


「はい――君もおしまい」


 言葉は弾丸以上の威力を持つ。


 それが指すのは存在の終わり。射貫かれた少女は主が去った後に自我を失って、叫び続けた。


 敵の全滅でゲームは終わって、私は主とセーフティーで顔を合わせる。


「んんーよくやったわねぇ! ナイス援護あかり」

「ありがと・・・・・・もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

「褒めたげる褒めたげる。ヨシヨシ!」


 主、アリスは何度も私の頭を撫でて褒めてくれる。


 それが心地よくて好き。私はこのために生きている。


「ねねマスター! 私も!」


 光が迸って二人の少女が現れる。


 主のドゥーガルガン『ラギィー』。見た目幼女だが学校では同学年。


 そして二人目。その後ろで静かに佇むのが『レスアート』。大人びた雰囲気でラギィーとは一線を画す。


 駄々っ子のように近づいてくるラギィーが、私から主の手を取った。少しだけ許せないけど、主のドゥーガルガンだ。逆らえない。


 せめてもの抵抗でむふぅと頬を膨らませる。それに気づいて主はいたづらに笑って、私たちを抱きしめた。


 心音が直に耳を突く。身体の芯からゾクゾクと興奮が湧いてきた。


 これ以上は理性が持たない。垂れだした鼻血を必死に堪えて、私は主から離れた。


「みんなの協力で今日も一人、無事に消せました!」

「流石ですマスター」


 レスアートが慎ましやかに讃える。


「だけど、次の敵は今までで最も厄介と言える敵。誰だか分かる?」

「だれだろー? そんな人いたっけ?」

「ラギィーとレスアートは会ったことないかなぁ。あかりは分かるわよね」

「うん。片岡 咲良」


 頷いて名を言うと、「正解!」と主は応える。当たってた嬉しい。


「次はあいつを消すの。高い壁かもだけど、その分刺激的な戦いになると思う。楽しみっ!」

「私も」


 主の楽しみは私の楽しみ。


 見つめ合って笑みを交わす。そして、私たちはターゲットを見定めた。


 もっと楽しくて狂おしい戦いを求めて。

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