ドゥーガルガンを狩る。
そのために私たちは存在する。
存在を賭ける私と、
死なない戦争ごっこの裏で、今日も殺し合いは続く。
「ねぇねぇ。もっともっと、殺意を剥き出しにしてよ!」
市街地フィールドにこだまする甲高い声音。
銃声の最中を可憐に駆けるブロンドヘアの少女こそ、私の主だ。
少し離れた高台からスコープの端で後ろ姿を捉え、彼女の先に待ち構える敵を据える。
「のんのんよあかり。待て」
「はぁい」
不気味に、蕩けた声で私は答える。
すると両手に銀色の光沢が眩しいハンドガン『M92X』を携えたがクロスヘアに飛び込んできて、合わせていた敵を一撃で倒す。
「こいつじゃないわね。ドゥーガルガン持ちは見えそう?」
「アトラぁ、どぉ?」
「いることはいるけど隠れてやがる。スナイパーだ」
ドゥーガルガン同士は互いに知覚しあう。けれど詳しい位置までは分からない。
ならと、私は立ち上がった。須臾、弾丸の気配を見つけて頭をズラす。
殺意がオーラになって伝わる。撃ってきた方角で大体の位置は掴んだ。
「あそこ」
指を指すと、主が猛烈な勢いで飛び込んで近接戦に発展した。
狙った時点で勝負は見えている。不敵に笑ってスコープでその様子をじっと覗くと、
「この世に思い残すことはある?」
主は相手の四肢を奪って馬乗りで語りかける。
敗北必至のマスターは表情を溶かしたように崩し、涙と鼻水を混ぜながら懇願する。
「やだ・・・・・・殺さないで!」
ぐちゃぐちゃの顔。それを一つの絵として栄えさせる主の言葉と猟奇的な笑み。
「ダーメ。マスターが減らないでしょ?」
「もうこんなことしないから! マスターを殺さないから見逃して! お願い!」
「あら? 何か勘違いしてる? 私は何も貴方を断罪するために倒すんじゃないわよ?」
疑問符が声になって聞こえる。それへ主は丁寧に回答する。
「私は殺し合うのが好きでマスターを倒してるの。それが私の全てだし、サヴァイブファイトの主もそれを望んでる。最後に見捨てられても、満足出来るまで殺せれば私はそれでいいの」
主の考えは深い。私も同じ気持ちだし、主とこの身を共にする覚悟でいる。
絶望が顔の彫りを深くする。少女はまるで死神でも見ているような目で主を据える。
あんな顔で私も・・・・・・。しかしそこへ邪魔な銃声が入る。
「あぁもう。邪魔するな!」
外野の蠅がうるさく銃声を掻き鳴らす。牽制のつもりだが、私を苛立たせるノイズだ。
二度とその手に
瞬く間に相手は腕を奪われ、銃が使えない身体になる。だけど、これだけでは足りない。
ノイズうるさい。失せろ失せろ失せろ。
そんな呪詛は弾丸となって、すでに奪った腕とまだ健在な両足に幾数の弾丸を叩き込む。
動けなくなっても絶え間なく続く射撃。弾丸が尽きるまで、終わりの見えないそれはまさに拷問に等しい。
そして主も私も仕上げに掛かる。
「ラギィー、レスアート」
両手のハンドガンから神々しい光が発し、二人が一つの銃に変わる。
折りたたみ式のフォールディングストックに艶のない黒の塗装のサブマシンガン。ベレッタPMXに変わったその銃の口で、主は眉間を射貫いた。
「はい――君もおしまい」
言葉は弾丸以上の威力を持つ。
それが指すのは存在の終わり。射貫かれた少女は主が去った後に自我を失って、叫び続けた。
敵の全滅でゲームは終わって、私は主とセーフティーで顔を合わせる。
「んんーよくやったわねぇ! ナイス援護あかり」
「ありがと・・・・・・もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「褒めたげる褒めたげる。ヨシヨシ!」
主、アリスは何度も私の頭を撫でて褒めてくれる。
それが心地よくて好き。私はこのために生きている。
「ねねマスター! 私も!」
光が迸って二人の少女が現れる。
主のドゥーガルガン『ラギィー』。見た目幼女だが学校では同学年。
そして二人目。その後ろで静かに佇むのが『レスアート』。大人びた雰囲気でラギィーとは一線を画す。
駄々っ子のように近づいてくるラギィーが、私から主の手を取った。少しだけ許せないけど、主のドゥーガルガンだ。逆らえない。
せめてもの抵抗でむふぅと頬を膨らませる。それに気づいて主はいたづらに笑って、私たちを抱きしめた。
心音が直に耳を突く。身体の芯からゾクゾクと興奮が湧いてきた。
これ以上は理性が持たない。垂れだした鼻血を必死に堪えて、私は主から離れた。
「みんなの協力で今日も一人、無事に消せました!」
「流石ですマスター」
レスアートが慎ましやかに讃える。
「だけど、次の敵は今までで最も厄介と言える敵。誰だか分かる?」
「だれだろー? そんな人いたっけ?」
「ラギィーとレスアートは会ったことないかなぁ。あかりは分かるわよね」
「うん。片岡 咲良」
頷いて名を言うと、「正解!」と主は応える。当たってた嬉しい。
「次はあいつを消すの。高い壁かもだけど、その分刺激的な戦いになると思う。楽しみっ!」
「私も」
主の楽しみは私の楽しみ。
見つめ合って笑みを交わす。そして、私たちはターゲットを見定めた。
もっと楽しくて狂おしい戦いを求めて。