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第4話

 入学式は恙なく終わってホームルーム。


 一クラスの人数は三十人程度。担任の教師が自己紹介を終えると、次は生徒の番であ行から始まる悠里がトップバッターだった。


 この時ばかりはこの苗字を名乗った祖先をちょっぴり恨む。


「新井 悠里と言います。こんな容姿をしてますが男です。趣味はサバゲーでこの学校に『236部』ってのがあるみたいなので来ました。一年間よろしく」


 教壇で名前と性別を名乗って無難に済ませると、困惑するクラスメイト達の顔が映った。


 後ろの方ではひそひそと何やら小声で話をしている。その「本当に男なの」って反応やめて欲しい。


 しかし一通り見渡してると一際驚いている女子がいることに気がついて視線が吸い付く。


 黒髪のボブヘア。丸い眼鏡を掛けていて、初めて会った気がしない。


 目を眇めて天井から床、窓ガラスに目を泳がせたときに思い出す。


 鮮烈なまでの戦闘の記憶と共に。その瞬間、彼女の名前が口を突いて出た。


「片岡 咲良!」


 ギクッと何かマズい事でもしたのかというように身体をビクつかせた。


 片岡 咲良。弾丸を可憐に避けながら迫る死神のような少女だ。あの時の死闘は今でも脳裏に焼き付いている。名前は忘れていたけれど、あの戦いだけは忘れようがない。


 担任教師の咳払いに気づいて自席へ戻る。


 もはや彼女以外のことが頭から抜けて他の自己紹介が頭に入ってこなかった。


 そして咲良の番が回ってくる。


「か、片岡 咲良と言います。昔から人前で話すことが苦手で……あっ趣味はえーっと、特になくてですね、最近は読書とかよくします。一年間、仲良く出来たらいいなって思ってます」


 時折声が裏返ったり、身体をもじもじさせたりと落ち着かない様子だったが、悠里は首を傾げる。


 でもサバゲーが趣味って女の子じゃ公言しづらいもんな。危ない奴って思われたりもするしなどと勝手に納得してその時の違和感は収まった。


 クラス全員の自己紹介が終わり、ホームルームは解散になった。


 悠里はすぐまさ咲良の元へ話し掛けに行った。


「久しぶりだね。三週間ぶりぐらいかな?」


 コクリと咲良は頷く。


「まさか同じ高校だったなんて思わなかった」

「わ、私も、です」

「さっきは大声で呼んじゃってごめんね。びっくりさせたよね」

「ぜ、全然! 大丈夫です! はい」


 咲良の挙動不審ぶりが第一印象からは少し離れた印象を抱く。


 気さくに話しかけたつもりが動揺を察して話題を変える。サバゲーの話ならきっと彼女も話しやすいだろう。そう思っていた。


「あれからサバゲーの調子はどう? あの日の夜、戦いの興奮で寝れなくて、また片岡さんと戦いなって思ってたんだ。そうそう、さっき上級生から『236部』の勧誘を受けたんだけど、それがもう強烈なインパクトでさ」


 興奮冷めあらぬ様子で話す悠里に対して咲良はじっと黙っていた。


 同じ部に入るのだとしたら彼女ほど心強い味方はいない。ドゥーガルガンの正確無比な予測をも立ち回りと戦闘術は無類、スーパー高校生級の逸材だ。


 味方になるだけじゃない。戦いを通じて自分の成長にも繋がる。それにドローゲームでは煮え切らないだろう。悠里はきっと咲良も部に入るだろうと確信を持って誘いの言葉を口にする。


「そうだ。片岡さんも236部に入るんだよね? あの時の強敵が今度は仲間かぁ。頼もしすぎるよ。百人力だよ」

「もう辞めたんです。サバゲー」


 ……え?


 ボソリと呟くような声に愕然としてしばらく言葉が見つからなかった。


「この高校には236部があるから通い始めたんですけどね。もう良いかなって」

「もう良いって。片岡さんほどのサバゲーマーがどうして、なんで」


 再会はほんの数週間ぶり。あの時言葉を交わしたときはとても健気で覇気があった。


 しかし今はすっかりと消え失せている。一体、何があったというのだ。


「つまらなくなっちゃったんです。だから私の前で、金輪際その話をしないでください……」


 突き離すような物言いで咲良は席を立った。


 悲しみと憤りが胸を騒がせる。だが波立つ感情を抑えて、悠里は言葉を継ぐ。



「何があったんだい?」

「何がって……それを知ってどうするんですか?」

「誤魔化すのは悪手だよ。実力もあって突然きっぱりやめますなんておかしいじゃん。そんな簡単に捨てられるわけない。怪我? それとも人間関係?」

「……ウザイですよそういうの」


 まさか、ほぼ初対面の人間からウザイという罵倒を聞かされるとは思ってもみなかった。


 聞こえないように小声で呟いた後、露骨に溜息をついて咲良は答えた。


「つまらなくなったから辞めた、それで十分じゃないですか。うんざりです」


 これ以上聞かないでくれと、逃げるような足取りで彼女は教室を出て行く。


 その表情は何かを強く恨んでいるように強張っていた。


 理由も知らないままでは釈然としない。引き留めようとすれ違った彼女を追ったが、その姿はすでになかった。



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