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第64話

 フィールドに着いたのは丁度、第一戦目が終わった頃だった。


 続々と戻ってくる仲間と顔を合わせるが、表情が重苦しい。ただ走って疲れたにしては妙だ。


 入る前にフラッグが鳴ったのは聞こえたし、雰囲気で負けたことは伝わる。でも、それぞれが戦意を失っているようにも思えてしまう。


「何があったんですか?」

「咲良か・・・・・・実はな」


 涼に尋ねると、彼女は静かに語った。


 二手に分かれて攻め入っていた城西のメンバー。しかし涼が仕切っていた市街地側の面々がたった一人の男に全滅させられた。


 その男はフラッグなんかに目も暮れず森の方まで抜け、食らいつくすように味方を次々と倒していったのだと言う。


「手も足も出なかった・・・・・・せめて私の銃の調整が完璧なら」

「らしくないですよ涼先輩! まだ一戦目じゃないですか!」

「でもな咲良・・・・・・あいつは」


 彼女の目がその男へ向く。


 短く切りそろえた金髪に目鼻立ちの良い好青年。優しそうな微笑みは女性を悩殺してしまいそうな魅力を持っている。


 しかし咲良の顔は引きつった。この人のいるとこだったと。


「待ちかねたぞ片岡 咲良」

「うげっ」


 露骨に嫌な顔をして振り向くと、


「やはり君と私は、宿命という見えない赤い糸で繋がっているようだ」


 この気取った言い回しに、変に格好つけている雰囲気。 蔵前 パーカー。私の事をやけにライバル視する男。


 正直な話、この人苦手。


「だがその糸、今日こそ切らせていただく」

「勝手にしてください」


 繋げた覚えはない。


 咲良はつっけんどんに言い放つと、パーカーは高笑いを浮かべてチームのとこへ戻っていく。


「知り合いか?」

「前に戦ったことがあったんです。それからのストーカー」

「俺の他にいたんだな」

「えぇ。ときどきキザで意味不明な事言うの以外は、悠里君と似てますね」


 ちょっとした一言に悠里は顔を軋ませる。


「何かあったんですか?」

「・・・・・・完膚なきまでにやられた。倒したければ咲良を連れてこいなんて抜かしてな」


 まるでテロリストの要求みたいな台詞だ。


 けど、城西の面々がここまで疲弊してる理由が分からない。


「いつもの悠里君なら「俺が倒してやる」「次は負けない」って息巻いてるのに、今日はどうしちゃったんですか? 悪いものでも食べました?」

「ありきたりだな・・・・・・大したことじゃない」


 悠里が目を逸らす。


 何か隠してる。咲良は顔をじっと近づけ、


「何かありますね」

「な、なんでもないって」

「じゃあなんで目を逸らしたんですか!」

「それは・・・・・・」


 すると、不意に触れていたラプアが言う。


「諦めたなお前」

「ちがっ」


 図星だ。悠里は慌てて否定しようとするが逃がさない。


「ビビッたんですね」

「あんな紳士ぶった男を前に、情けない」

「ラプアまで・・・・・・あぁそうだ。諦めちまった。こんな奴に勝てるのかってさ」

「何があったんですか?」


 問うと、赤裸々に悠里は吐いた。


「モスカートが飛んできたんですか」

「あんなの普通考えないだろ?」

「えぇまぁ」


 モスカートとはエアソフトガンでもグレネードランチャー系に採用される弾倉システムのことだ。


 あくまで弾倉――マガジンなので、飛んでくることなんて普通はないのだ。


 それが飛んできた。しかし咲良の反応は薄い。


「まるでさも当然みたいな反応だな」

「まぁ、あの人ならやりかねないって言うか」


 蔵前 パーカーが相手だからこそ驚かない。


 彼の経歴を知っていれば、サプライズが用意されてるのも予測がつく。


「彼は巷で『トイメーカー』と呼ばれていたガンスミスです。一見すればエアガンと無縁のものをエアガンに改造する物作りの鬼才。師匠が昔『死のワクワクさん』なんて呼んでたっけな」


 悠里の肩がだんだんと震えていく。怖じ気づいたのかな?


 と、今度は涼に迫り、


「そんな情報あるなら早く教えてくださいよ先輩!」

「いや悪かった! なるべく新鮮な気持ちで挑んで貰おうと思ってさ!」


 消沈ぎみだった涼も悠里に問い詰められて苦笑いする。


 若干だが場の空気が和む。


 けれど第二戦の時が近づくと再び張り詰める。


「あのランチャーをどうにかしないとまた同じ手にやられる」


 涼が言うもその具体的な作戦が思いつかない。止めるにしろ、近づいてパーカー本人を倒すしか・・・・・・


――私に作戦がある。フリップをめくったヘルメットさんが見せつけるように掲げた。


「作戦って」


 キュキュッとマジックを鳴らして書いたのは下手なイラストだが、僥倖でもあった。

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