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第63話

 前線での撃ち合いが始まった。


 遠くに聞こえるモーター音。飛んできた流れ弾が近場のバリケードを軽やかに弾く。


 ギリースーツで完全に森へ溶け込んで機を待つが、敵も狙撃手を警戒して隙を一切作らない。


 入り組むような木々のせいで視界も射線も通りづらい。


「身体を晒す時間も短い。タイミング読めるか?」

「タイミングを読んでもこの距離からでは避けられる。こちらの位置もおおよそ掴んでいるような配置だ」

「流石、全国常連って言ったところかな」

「感心してる場合か。それこそ、アレを使うには打ってつけの状況だろう」

「だな、敵の位置、捕捉できるだけ頼む」

「頼まれた」


 ラプアの気前の良い返事を耳に、ライフルのスコープを載せ替える。


 そして見つからないよう亀の如くのんびりと移動し、スコープ上の電源ボタンを押した。


「十一時方向に一人、距離70」

「仕留める。風は?」

「ほぼ無風。素直な弾道を描ける」


 灰色の視界に白く強調された人影。レティクルの中心に捉え、トリガーを引く。


 着弾まで三秒――直撃コース。


「ヒット!」


 どこからともなく襲われた敵は、辺りを不思議そうに見回して退場していく。


「この視界でもくっきり相手が映る。こいつはすげぇなサーマルサイト」


 サーマルサイト――暗闇や視界の悪い場所でも人を捉えることができるスコープだ。光学レンズではなく赤外線カメラなんかを搭載しているので数十万円はくだらない。


 ラプアや五十鈴から貰ったスコープの性能に期待以上だと声を上げた。


「次!」


 前線で撃ち合いに夢中の敵を側面から攻撃する。しかし二人目を倒したところで、巧みに射線が切られてしまった。


「敵が引いた。よぉし、前線上げるぞ!」


 先輩が前へ踏み出して、森側の前線が上がる。

 このままの勢いで攻め切れれば・・・・・・そう思ったとき、前へ出た先輩達の頭上から雨のようにBB弾が降り注いだ。


「なんだ?!」


 遠目だが悠里にはくっきりとその一部始終が見えていた。


 まるで狙い澄ました砲撃が直撃したような光景。後を追うように缶のような物体が落ちて、すぐにその場を離れる。


「悠里どうした?! 身体を晒したら」

「あそこにいたらやられる」


 言葉の直後、同じ雨がさっきまでいた場所に降り注いだ。


「敵の砲撃です! 急いで市街地側へ待避して!」


 残った味方への警告。しかし、


「砲撃だと?! 236でか? それにこの森で」

「急いで! じゃないと、ここの全員がやられる」


 空から落ちてきたのはBB弾だけじゃない。詳しい説明をしないと理解されないけど、余裕がない。


「涼先輩! 聞こえますか?! 涼先輩!」


 呼び出すが応答はなく、いち早く市街地側へ逃れた悠里だったが、


「ようやく現れたな! ギリーのスナイパー!」


 出会ったのはパーカー。どうやらこの辺の味方は全滅したらしい。


 彼のカラシニコフが火を噴く。


「君のその格好、その武器、片岡咲良の相棒と確信した!」


 ペラペラと独り言のようにしゃべり出したパーカー。


 弾丸を寸前で避けて、悠里はバリケードに背をつける。


「しかし彼女の隣に君は相応しくない」

「っ! 何が言いたい?」

「乗るな悠里!」


 ラプアの制止に心を落ち着かせようとするが、


「隠れてコソコソと戦う男では彼女に釣り合わないと言っている」

「それがスナイパーだ」

「だが男らしくない! ここで完膚なきまでに叩かせて貰う!」

「・・・・・・やれるもんなら!」


 ラプアのバレルを内径が狭い初速型に交換し、本能射撃中心の近接戦闘を仕掛ける。


 だが相手は電動ガン。こちらが一発吐き出す間にニ十発は撃ち出せる。


 相性は最悪だが、言われたままで引き下がるのは我慢ならない。


 激しくバリケード間を移動して、照準の隙を作らせないよう動く。牽制しつつ彼の背中へ回り込もうとするが、


「甘い・・・・・・甘すぎるぞ!」


 牽制を入れる間に彼も射撃位置を変える。咲良程ではないものの、バリケードから出るときは必ず射撃を入れ、こちらの射線を上手く躱している。


「撃ち合いのセンスは悪くない。コソコソするだけしか戦い方を知らないかと思っていたが、認識を改めよう。その気概は認める。だが――」


 相手の弾数を数え、リロードの隙を突いての突撃だが、何か来ると直感が囁いた刹那、


「観察眼が疎い!」


 真横を通り過ぎた40ミリの榴弾。背後で乱れるように回転すると弾頭に詰められたBB弾が炸裂。悠里の背中から一気にまき散らされる。


 パーカーが手にしていた一発装填のグレネードランチャー『M320』。しかし本来こいつは弾頭を飛ばすのではなく、広範囲にBB弾だけをまき散らすエアガンだ。


 それが実銃同様にグレネード弾を飛ばしていた。悠里は頭の処理が追いつかないが、本能的に身体を倒してその攻撃を避ける。


 しかし身体を晒した挙句、飛び出した悠里は既に彼の術中に嵌っていた。すぐさま走り出してきたパーカーは、己の相棒の銃口を頭に据えていたのだ。


「チェックメイト・・・・・・しかしその美しい顔に至近距離から弾丸を浴びせる趣味はない」


 その屈辱的な言葉に悠里はハンドガンを抜こうとするが、高らかなブザー音で自陣フラッグが取られたことを告げられる。


「私を倒したくば片岡 咲良を連れてきたまえ。最も、今の私を止められるとは到底思えんが」


 勝ち誇るような言葉に心底悔しさがこみ上げるが、こちらを見る獰猛な獣のような瞳が鋭く恐ろしかった。


 もはや抗う気さえ起こさせないオーラ。レベルの違いを思い知らされ、悠里はただ項垂れるだけだった。

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