城西高校、地下フィールド。
市街地を模した戦場を赤と黄のマーカーを巻いた戦士達が躍動し、彼等を率いる女子生徒『安土 涼』の檄が飛ぶ。
「もっと気合入れて攻め込んでこい! 一年連中!」
予選で全国常連、優勝候補の茗荷谷高校を見事に下し、ダークホースとして名乗りを上げた彼等は、EOSの当日に向けて猛練習に励む。
悠里も例外なくその一人。黄色マーカーを巻き、櫓から全体を観測するスナイパーとしてラプアとともにいる。
「左翼の前方40メートルに二名! 右側端は三人、フラッグに向けて移動してる。咲良、その位置だと挟まれる! 進むのは待て!」
「援護してくれますか?」
「行ける」
最前線には咲良の背。バリケードの壁を蹴り上げ、縫うように進み、視線とレティクルをその先へなぞる。
射線はクリア。こちらを狙っている敵もいない。
しかし涼が相手だと何をしてくるか。
「左翼抜かれる! 新井、こっち頼めるか!?」
「無理だ。咲良が突出してる。そっちを支援しないと」
「安土先輩を筆頭に押されてる・・・・・・」
「分かった。咲良、そこから左翼側に寄ってくれ! 味方がやばい!」
「すぐに片付けて行きます!」
ハンドガードを力一杯握り、咲良は軽快なステップでバリケードの影から飛び出す。
待ち構えるは赤マーカーの先輩達二人。二手に分かれて挟み込む算段らしい。
「いくら片岡でも」
「クロスファイアなら!」
「っ!」
左右を固められて万事休す、と思いきや彼女は壁づたいに走りながらライフルの弾丸を容赦なく叩き込む。
その勢いでバク宙。反転した世界の最中で照準しトリガ。まるで踊るように二人を一瞬にして黙らせる。
「悠里君は援護に集中してください!」
「あぁ・・・・・・」
相も変わらずクレバーな戦闘スタイルをしてやがる。悠里は心の中で呟いた。
「集中しろ悠里」
「悪い。まずは頭を潰す。涼先輩の位置は?」
「フィールドの左端、壁沿いをコソコソと動いてる。出てくるタイミングで仕留めろ」
「りょーかい」
スゥーフゥー。呼吸を整えながら、涼の現れるタイミングをじっくりと待つ。
そして彼女の姿を捉える寸前、
「撃て!」
トリガ。シリンダーのエアとCo2ガスの混合剤が6ミリの弾丸を押し出す。
弾道は球状の弾に掛けられたバックスピンで僅かに膨らんでから落ちる。そして涼が現れた瞬間、
「マジかあいつ!」
避けようと頭をそらすが、身体が引っ込みきれずたちまちダウン。仄赤くなったバイザーの微光を一瞥し、次のターゲットに移る。
それからはもはや悠里と咲良の独壇場であった。
赤チームの中心だった涼が倒されたことで左翼側の善戦が崩壊。悠里と咲良による挟撃で突破され、そのままフラッグが落とされる。
紅白戦ならぬ赤黄戦は終わり、セーフティーでしばしの休憩を挟んだ。
「あの二人は止めようがない」
そんな先輩達の会話を耳にして、悠里は内心で得意げになる。
確かに今の俺達は息がぴったりだ。以前よりも互いの役割を深く理解しているし連携も取れている。どちらかが窮地に陥ったときはカバーもし合っているし、何より立ち回りと動きの洗練さが増した。
「だが今度は敵が常時複数いるバトルロワイヤルだ。次からチームの比率を変えて戦う。悠里と咲良は分ける」
「えっ?! 悠里君と別チームですか?!」
「なんだ不満か?」
「い、いえ。何でもないです」
咲良は驚いて思わず漏らしたが、気圧されて頷いてしまった。
しかしそんなに意外なことだったろうか。仮に咲良と同程度のプレイヤーと当たったときの練習も必要になるし。
チラチラとこちらを見る彼女の姿にそんなことを思った悠里。
そのあと、ゲームで二人が顔を合わせることはなく、そんな偶然もあると悠里は気にも留めていなかった。
まさか彼女がドゥーガルガンを持っていたなんて、知るはずもなかったからである。