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EOS予選決勝から三週間。


城西高校236部は全国大会の当日に向けて練習を重ねていた。地下のフィールドには今日もエアソフトガンの銃声がけたたましく響き、部員たちは本戦へ向けた練習に身が入っていた。


思えば予選でも色々な出来事があった。スティールのカウンターで壁に飾られた予選大会優勝の写真を眺めて感慨に浸っていた。


私と悠里、ラプアの三人が写った優勝写真、その横の結衣とのツーショット。


それを見ながら微笑む。入学から想像もしていなかった出来事ばかりでここは現実なのか、頭は疑い続けていた。


幸せな疑心という奴か。咲良は写真を手繰り寄せて、ずっとこの関係が続けばいいと願ったが首を振った。


「願うんじゃない。私が大切に持っていなくちゃいけないんだ」


呟いた途端にきょとんとして一人で吹く。なんだか悠里君の熱血っぷりが移ってしまったみたいで面白かった。


「ちょっと咲良―。貴方に宅配よー」

「はーい! 今行くね!」


一階から母の呼ぶ声がした。


なんの宅配だろうと気になって階段を下りてみると、母が重そうに長いダンボールを立てて廊下を歩いていた。


「送り主を聞いたんだけど宅配の人も分からないみたいでねー」

「書いてあるんじゃないの? 伝票に」

「それが真っ白なのよー」


受け取って箱を眺めてみるが、送り主は愚か宛先すらない。どうやって送ってきたのかと不思議に思い、開けないのが得策だと理性が囁く。


けれど長さや大きさ、重さからしてエアソフトガンではある。開けないで捨てるというのもなんだか勿体ない気がする……。


「多分悠里君からだと思う」

「悠里君?」

「新しい相棒」

「それって男の子?!」

「喰いつき早?! んー、見た目はすんごい可愛いけど、男の子だよ」


男の子。それを聞いた途端に母が膝から崩れ落ちて、


「咲良にもついに彼氏が……母さん、感激。今日は赤飯炊くね」

「そんなんじゃないよ。相棒だって」


感嘆を漏らしているが捨て台詞を吐いてさっさと部屋へ戻った。ずけずけ聞かれても面倒臭いし、照れてしまう。


件の箱は丁寧に梱包されていて覗ける隙間もない。これが爆弾だったりしたら一巻の終わりだけど——


「狙われる心当たりはないわけだし、大丈夫」


妙な持論を言い聞かせながらカッターでガムテープを丁寧に切る。


中は見立て通りエアソフトガン。それも師匠から授かった愛銃のAR—15系で、デザインの端には大手メーカー『東京クケイ』のロゴが刻まれている。


新品同然の状態に目を丸くしたが、蓋を開くともっと驚かされる。


発砲スチロールに収まっていたのはパッケージの見た目とは全く違う異形の銃。カスタムパーツが盛りに盛られてもはや原型はどこへ行ったのか。


空いた箱に詰めたのかなと思いきや、胴体はそのままでカスタム銃ということは分かった。


そして刻印が眼に入った時、持っていた手から銃が落ちた。


決して落ちることのない涙を持つ少女。その下にNAGARAの文字。接地した瞬間、眩い光が部屋を包み込んで、銃は人へと変わる。


茶色の前髪を切り揃えたショートボブに端整な顔立ちの美少女。何度も会ったその顔に咲良の心音は跳ね上がった。


「初めましてマイマスター。私はドゥーガルガン『ナイト』。貴方の武器となり、可能性となる銃」

「悠里……君?」





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