終結の銃声。
咲良に重ねた弾道を最後まで見通すことができなかった。眉間を射抜かれてその場に倒れた真理は仄赤く染まる視界で遙か向こうに消えた元マスターに手を伸ばす。
虚しく戦い続けて得たのはマスターの死。その元凶はドゥーガルガン、私であり、マスターの願いは全てのドゥーガルガンを破壊すること。
私はどこで間違ってしまったのでしょうかマスター。記憶の欠片からの問いかけはただ真理の頭の中を循環する。
「可能性なんかじゃない。真理さんの言うことは確かにその通りかもしれない。ドゥーガルガンは可能性なんかじゃない。破壊すれば皆が生き残る」
「分かってくれるの?」
「でも、大切な人を奪われるのは誰だって辛い。だから宿命に抗う。俺も、そんな真理さんのやり方に可能性を見い出した。それにラプアは気付かせてくれたんだ。ラプアはラプアで、俺の死んだ妹じゃない。その相棒と叶うならずっと一緒に居たい」
「新井……悠里君。でも私は君の大切な存在を手に掛けて、相棒にも殺意を向けた」
「そうだよ。俺は貴方を許せないかもしれない。でもそれが正しくあると進んでしまったのなら仕方がない」
「仕方がない? 殺しておいて、壊しておいて仕方ないなんて」
「俺も貴方も一つ道を間違えた。だったら今からその道を変えれば良い。きっとあなたのマスターもそれを望んでいると思う」
間違えたら正せばいい。その言葉に真理は堪えていた涙を解き放った。
「俺はもう誰の記憶も、命も奪わない。サヴァイブファイトを止める。際限のないこの戦いを」
「間違いは正せばいいか。懐かしいね。その言葉」
「真理さん」
「君のおかげで少し頭が冷やせたよ。暴走するこの心も」
安堵の溜息。マスターの言葉はやっぱり重たくて優しい。
真理はポンポンと尻の泥を払うと、立ち上がって手を差し出す。
「これから私と一緒に戦ってくれないかい?」
「……はい!」
悠里はその手を取り、力強く返した。
「ドロだらけね」
フィールド出口の青いネットを潜ると、会場全体が拍手喝采に包まれていた。
「よくやった。悠里」
城西と茗荷谷の面々も揃っていた。涼の誉め言葉は少し照れ臭い。
「さて悠里、咲良。私達はこうして予選を制して全国への切符を手にしたわけだが、まだ負ける気はないよな?」
「……勿論です。でも一つだけ違う。俺はもう誰も殺さない。マスターを誰一人として撃たない。矛盾してるかもしれないけど、支えてくれた人の壮大な夢に、俺もいたいから」
俺の決意だ。悠里は凛とした瞳で涼や真里を見て誓った。
「ねぇ悠里君」
健闘を称え合う彼らの中で、ふと咲良が問う。
「私、貴方のような恩人になれたでしょうか?」
「多分……なれたと思う」
沈黙を挟んだ後に出た言葉が咲良の照れがちな笑みに紅を挿した。
恩人になる気はなかった。結果的になってしまったわけだが、案外悪くないと今は思える。
「これからもよろしく。相棒」
「はい!」
サヴァイブファイトの根は想像以上に深いかもしれない。けど咲良や真理となら止められる。もうこの戦いで誰も犠牲にさせない。
悠里は固く胸に誓い、EOS予選は城西高校の優勝で幕を下ろしたのだった。