圧搾ガスが放つ軽快な金属音に木のチップに吸われる着弾音。そして木の葉が騒めきと共に降り立ちシールドを展開すると、距離を取りすでに射撃されていた真理の弾丸を容易く跳ね返す。
「悠里君!」
境界線を穿つように舞い降りた黒い装束の少女は叫ぶ。
「咲良……なのか?」
「この大馬鹿! 薄情者! 何勝手に死ぬとか言ってるんですか!?」
「何って……」
「諦めるなこのバカ! 打ちのめされても立ち上がって、しつこいくらいまで足掻く悠里君はどこへ行ったんですか?!」
その鬼気迫る表情は悠里が久しく抱かなった緊張感を蘇らせる。
足掻くこと。それは咲良と最初に戦ったときに言った自分の言葉だ。足掻いて足掻いて、それで掴み取った今を、俺は失おうとしている。
ハンドガンを乱射しながら咲良は鬼気迫った表情で悠里を睨む。
「ごめん」
「もう聞き飽きました」
謝ると一転して顔の表情が砕けて、悠里へ手を差し伸べた。
「片はついたのか?」
「勿論です。それより今は悠里君の戦いです。こっちも片付けて五十鈴さんの淹れてくれるコーヒーを3人で飲みましょうよ」
「……そうだな。止めるには彼女からヒットを取るしかない。できるか?」
「一人なら無理です。けど私と悠里君、ラプアさんの3人でなら行けます」
乱入してきた咲良には驚いたが、これでまだ戦える。
起き上がりラプアへ手を差し伸べると、彼女は眩い光となって悠里の両手に集束し愛銃『AXMC』が顕現する。
この銃はもう妹の死を覆す『可能性』でも、己を殺す『呪い』でもない。
他ならない俺の愛銃。咲良との目配せを合図に二人は破壊者へと立ち向かった。
程なくして熾烈な戦闘が勃発した。咲良が参戦してから戦況は一変。連携を巧みに駆使し左右から上方向からとアドランダムな攻撃が続く。
「次、右に避ける。狙えるぞ」
「了解ラプア」
ラプアの予測も健在で、間違いなく過去一番のポテンシャルを発揮している。
二人は全くの未知の領域に突入していた。結衣から聞いていたサクラドライブと、それに追随する悠里のコンビネーション。
想定していた実力を遥かに超えていた。追い詰められた末に唇を噛む。
なんでだよ……なんでそこまでして私の邪魔をするんだよ。
「なんで! 私の事を分かってくれないんだよ!」
真理は突撃する。感情が冷静沈着だった思考を捨てさせて本能の箍を外す。
フルオートで切り裂く木々の葉。狙うことも疎かになった弾丸は無秩序に地へ落ちる。
二人の影が重なる。咲良が前衛で背後に悠里がピタリとついた。
来る。しかし分かっていても、その狙撃は寸分たがわぬ精度と次元を超えた早業で放たれた。