手に取った拳銃はナイフによって弾き飛ばされ、彼女の余った勢いで押し倒された。
ナイフは首元。両手が塞がれる形で草のベッドに背を鎮める。
「……倒しなよ」
死を悟ったように無表情で言い放った。
戦いは決したのだ。アドレナリンが途端に切れて、体が鉛のように重たい。
最後に感情が載ってしまった。楽しい、勝ちたいっていう純粋な感情が邪魔をした。
トリガーの直後、這うような低空飛行に姿勢を変えた咲良は何でもないように狙撃を避けて迫ってきた。
そしてこの状況は生まれた。私の負けだ。
「ねぇ、早くしなよ。私のこと、目障りで仕方なかったんじゃないの?」
結衣は静かに問う。
「あの時のことが聞きたくて」
「言葉のままよ。貴方が目障りだった……」
目障りで仕方がなかった。
「私だって、咲良みたいに輝きたかった。みんなみんな、貴方の輝きに目を奪われて辛かったのよ。なんで私だけみんなが見てくれないんだって」
気づけば結衣の頬を涙が伝っていた。
咲良は驚いて弾を喰らったような顔をしていた。
「それだけで私を?」
「くだらないでしょう? 嫉妬よ嫉妬。ほんっと、私ってバカみたい」
初めて結衣が素直な気持ちを語ってくれたような気がした。
ずっとずっと影から見られていた。けれどギリースーツを着ているスナイパーが日の目を見る事はやられるその時以外ない。
咲良が褒められたり皆から称賛を浴びるたびに、誇らしくもあり苦しかった。
やっと吐き出せた。咽るように泣いた結衣を咲良は手繰り寄せて抱きしめる。
「ごめんなさい。私、気づけなかった。貴方のことを一番大切に思ってたのに」
「いっぱい傷つけた咲良の事」
「いいんだよ。言葉にしたくても出来ないことってあるから」
「こんな私でも、許してくれる?」
「許すも何も、私は結衣がどうして去ったのか知りたかっただけだったから」
「……ありがと」
咲良の言葉が温かくて結衣は身体を埋め、照れ臭そうに返事をした。
しかしこんな呑気にしていられないことを結衣は思い出す。
「ってこんなことしてる場合じゃないわよ。早くあの狙撃手のとこへ行きなさい」
「え?」
「早く、じゃないと」
結衣から告げられた真理の暴走。ドゥーガルガンを前にすれば彼女は理性を失い、破壊することだけを考えて動く。
悠里の身が危ない。思考よりも本能で悟り、結衣の背中を優しくナイフで抉った。
「ごめん。全部終わったらまたゆっくりと話そう」
慌ただしく咲良の背は森の奥に消えていく。
せっかちな奴め。心で呟いた結衣は涙目ではにかんでフィールドを後にした。