「正気ですか?」
フィールドで聞いた咲良の第一声はそれだった。
スタート直前の作戦変更。涼は深く相槌を打ってから考え込む。
頭のネジが吹っ飛んだように見せたつもりはないが、確かに大一番での作戦としては些か大胆すぎる気もする。
「ドゥーガルガン同士の戦いはマズい。それを避けるために敢えて俺と咲良は別行動。援護は涼先輩、お願いします」
「でも相手は結衣だけじゃないんですよ。向こうは全国常連の茗荷谷」
「いいや悠里少年の策が最適解だろう。誤って君の元相棒を撃てば、彼女は死ぬ」
「そんな……」
不安げな咲良。正反対な冷静さで涼はその案に乗る。
「向こうの主将は俺が引き受けます。咲良は向こうのスナイパーを、先輩達は取り巻きの相手を」
「あの」
話を止めるように咲良は手を挙げて
「もしかして私に気を遣ってませんか?」
そう聞いてくる。確かに咲良の因縁にケリをつけるにはまたとないチャンスで横槍が入らないように気遣われてるとも受け取れてしまう。
悠里は首を横に振って否定した。
「いいや。恐らく相手は俺と咲良がセットで来ることを予期しているはず。だから敢えて裏を掻く」
結衣の能力ならば恐らく裏を掻いてくることも想定していると悠里は踏んでいる。不戦の約束はあれ、それが真剣勝負をしない理由にはならない。
だがラプアのサポート無しでどこまでやれるか。
「悠里少年の作戦で行こう。全国屈指の連中相手に私らもどれだけ喰い付けるか分からないが、咲良をアタッカーに全力でサポートする」
「狙撃銃でアサルトライフルを相手にするなんて、悠里君を見捨てるようなものじゃないですか」
咲良の指摘は的を射ていて、全国大会常連校の主将を単騎で相手にする、しかも武器の相性も最悪とくれば無謀というほかない。
「咲良、ここは彼を信じるぞ。どんなルールであれ、茗荷谷の連中と互角以上に渡り合えるのは君しかいない。だがな、お前ら二人は何が何でも生き残れよ。死ぬことは許さん」
「分かってます。負ける気はありませんよ」
「……分かりました」
一拍の沈黙を置いて咲良は俯きがちに返事した。やはり不満は拭えないようで表情は浮かない。
「そんな浮かない顔するなよ。ここまでこれたのもお前達がいたからこそだ。初戦のとき、私は咲良を信じて良かったと思った。奏の反発を突っぱねて結果的には喧嘩別れしたが、あのときの選択は間違えじゃないって今思える。だからこの戦いも二人に私達の願いを託す。いいな」
先輩達の期待を背負うのは悪い気はしない。けれどプレッシャーを感じないと言えば嘘になる。
「だから全力でバックアップする。この身一つになってもお前だけは守る」
「涼先輩」
「心配すんな。悠里とお前は私達にとっての救世主なんだ。だから今度は私達がお前達の救世主になる番だろ?」
気さくに涼は笑い、肩を叩いた。少しだけ不安の種が消えたかもしれない。
深呼吸を一つして、茗荷谷高校の選手に続いてスタート位置についた。
レギュレーション:236 ルール:殲滅戦——相手チームの全滅が勝利条件 双方、出場総数は10名
スタートのブザーがけたたましく鳴り、二人は地を蹴った。