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第42話

部長が突然言い出した武器の交換。


予選決勝に向けた練習の一つらしいから承諾したけれど、


「まさか、悠里君の銃が巡ってくるなんて」


私は回ってきたライフルを手に、シューティングレンジで伏射の態勢を取りながら呟いた。


「失礼があったらごめんなさい。ラプアさん」

「構わない。好きに撃ってくれ」


触れた瞬間、脳内へ直接答えてくれるラプア。身体に入り込んでくるような感触が不気味だけれど撃ち始めると心地が良い。


BB弾は真っ直ぐ飛ばない。威力の規制から解き放たれても実弾のような流線型を持たない弾丸に弾道の不安定さは付き纏う。


対象までの距離が伸びれば伸びるほど如実に伝わる銃本体の性能。しかしこのラプアにはその一切が感じられない。


射程の限界でもレティクルで指した標的に寸分狂いなく当たる。その性能は私の知り得るどんなガンスミスでも不可能な極地の域だ。


撃つたびにラプアというドゥーガルガンの虜になってしまいそうだった。


これほどの物を作り上げてしまうナガラには畏怖の念すら抱く。しかし今日の本題はそれじゃない。


「ラプアさんは、なんで悠里君の妹をずっと演じてあげてたんですか?」


ボルトを引き、装填しながら尋ねる。


考え込むような沈黙を置いて、トリガーと同時に口火を切った。


「私はあいつの隣に居たかったんだ。相棒として。例え銃という道具のままでも良い。この命果てるまで、悠里の愛銃という矜持を全うしたかった。でもあいつは」


ラプアの望みとは掛け離れていた。あの後、想いの丈をぶちまけてすれ違ってしまったのだ。


私と同じだ。咲良はスコープに通した瞳を一度閉じて、自分の想いを確かめた。


悠里君は恩人で、迷っていた私を救ってくれた。一緒に戦っていくたび、彼の勝利に貢献したい、その瞬間に立ち会いたい、彼の笑顔が見たい。叶うのならずっと一緒に戦っていたい。


だから命懸けのデスゲームなんて今すぐ辞めてほしい。眼の前から悠里君が消えてしまうのが嫌だ。隣に居て真っ当なサバゲーをしたい。


だって私はもう——


「悠里君の事が好きなんだ」


頭の中で渦巻いた感情が思考と現実の境界線を忘れさせて口が滑った。思い返すと顔が煮えるように熱くなっていた。


「お前にとって、そんな大きな存在だったんだな」

「えっ?! 違います! 今の無し! 好きって恋愛的な意味じゃなくて」

「うんうんなるほど。あいつのことが、ねぇ」


さっきまでの憔悴しきった様子とは裏腹に、ラプアは陽気な声色で話す。


「だが、まぁ分かったよ。お前、悠里のことを嫌いになったわけじゃないんだな」

「恩人を嫌いになんてなりませんよ……駒として利用していただけでも、私に信じる心を取り戻してくれたんですから」


とことん心酔し切っている姿にラプアは少しだけ不安を覚える。


「悪い人間に騙されそうだなお前」

「そうかもしれないですね……私って結構単純なのかもしれません」


素直に流す。これじゃ恋していないという言葉と矛盾するけれど、気にするほどでもない気がした。


「だから、私は悠里君の生き方を認めてあげたかった」

「……悪い。それは私に『人間になれ』と言っているのか?」


咲良は首を横に振った。


「でも今は確かに言える。悠里君には生きていて欲しいし、ラプアさんとも一緒に居て欲しい。ずっと一緒が良い。けど、誰かを殺して一緒にいるのは嫌。だからサヴァイブファイトなんてやめてほしい。もうドゥーガルガン同士で戦うのは止そうって」


ラプアと話している内に決意は固まっていた。


もう誰かを悲しませたり殺したりなんかさせたくない。けれど悠里君やラプアさんと一緒にいたい。


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