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第35話

 背中に包装紙でぐるぐる巻きにされた盾を背負う。


 横目に映るそんな咲良は満足そうな笑みで信号待ちをしていた。


「良い買い物が出来ました」

「うん。なんか知らない物が混ざってるんだけど……」

「どうせ売れないからって一万円で売ってくれました。内側にはモールで——」


 怒涛の勢いでこの盾の魅力を熱弁してくる。まさしくテレビショッピングの販売員のような口ぶりだ。


 掘り出し物があって上機嫌な咲良。数週間前のいがみ合ってた頃がとうの昔に思えて仕方がない。

 軍拡交差点から少し離れて、上野駅前のガード下で信号を待つ。古びたオレンジ色の蛍光灯が陰気で怖い印象を与えてくる。


 街道を行き交う車の波を前に立ち止まっている。けれど不意に誰かが背中を押したような気がした。

 雑踏に蹴飛ばされたんだろうと踏み止まった。しかしそれは明確な悪意を持って悠里をヘッドライトの前へと突き出そうとしていた。


「なんだ?! お前……は」


 幸い、迫っていた車は悠里の姿に気が付いて慌てて車線変更をした。騒ぎを聞きつけた周囲と悠里の目線が背後に立っていた少女に向く。


「灰原高校の——」

「お前……お前お前!」


 血眼の彼女とは面識がある。いや、今は一方的な面識だろう——灰原高校の主将『田中 留美子』だ。


 表情は鬼気迫っていて周囲の視線も構うことなく、また悠里に襲いかかった。


 鍛えている分、力なら負けないと思っていた。だが火事場の馬鹿力という奴だろうか、留美子ともみ合いになった悠里は一方的に押し倒されて抑えつけられる。


「お前が私の願いを!」

「悠里君!」


 首に掴みかかると力任せに絞められる。必死にもがいて振り解こうとするが、次第に呼吸も薄れていって力が入らなくなってくる。


「離れなさい!」


 虚を突かれた咲良だったが、留美子の脇腹から骨が割れるような鈍い重音が響いた。咲良渾身のローキックが入ったのである。


 見た目は大人しそうな彼女から攻撃を受けたのが意外だったのか、脇腹を抑えて車道側へと引いていく。


「大丈夫ですか?!」

「あぁなんとか」


 息も絶え絶えに立ち上がる悠里。あと数十秒遅かったら恐らく死んでいた。


「何がどうなって……貴方、灰原高校の人ですよね? どうしてこんなことを」

「あぁもう何でもいい。私の願いを潰したこいつさえ殺せば」


 ポケットから取り出されたのは折り畳み式のナイフ。


 留美子の眼を見た瞬間に咲良が感じたのは明確な殺意だった。このままだと悠里君は殺される。


「お前らがいなければぁ!」


 刃が悠里に向く。殺意が宿ったその手が振りかざされたとき、トラックのクラクションが轟いて留美子は姿を消した。


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