間違えば正せばいい。
それが私のマスターの口癖だった。
明るくて気さくで優しくて、けれどサバゲーの事になると情熱的で負けず嫌い。だから私は彼を選んで戦ったのだと思う。
その選択を今は凄く後悔している。サヴァイブファイトの全貌を知り、悲劇的な末路を迎えたあの戦いを強いて、狂わせてしまったから。
もうあんな戦いは二度とさせない。人間になって、マスターを永遠に失った私がこの歪んだ戦いの連鎖を終わらせてやる。
その元にドゥーガルガンが訪れたのは、きっと神様の試練なのだろうか。
この銃は誰が作り、誰の為に存在するのか。欠落した記憶を追うように、彼女『東 真理』は往く。
茗荷谷高校の一回戦は敵の全滅とフラッグダウンの両方を果たす『アンネイブルゲーム』で終わった。
236のフラッグ戦は敵の全滅かフラッグのダウンが勝利条件。スキントラックセンサーや判定ドローンの登場からゲームの特性上、両方の達成は不可能とされていた。
だが真理が236部主将になってからその常識は覆る。彼女指揮下の三人分隊が全滅とフラッグダウンを同時に達成してしまったのだ。
アンネイブルゲーム。勝利条件の同時達成を意味する言葉はかくして生まれ、稀代の天才の加入からそれは堅実の物となりつつあった。
「結衣君お疲れ。君の予測大当たりだったよ」
「そんな大それたものじゃないわよこれくらい」
ベンチで不服そうに剥れていたのは咲良の元相棒『田中 結衣』。戦況マップの映されたタブレットを机にほおって戻ってきた先輩達の顔に訝しむ。
周りを見るとスナック菓子の空袋や神経衰弱をやったであろうとランプが散乱している。
「相当、退屈だったみたいだね」
「課題でも持ってくれば良かった。体力有り余ってるからこの後シェイと練習するけど、真理は来る?」
「お誘いはありがたいが、野暮用があってね。遠慮しておくよ」
「付き合い悪い」
『シェイタックM200』の形態をしたドゥーガルガン『シェイ』を撫でて不満げに言った。
「ごめんってば。でも今回の試合で君の力がどれだけ有用か実証できた。願わくば試合に出ないで指揮だけを執ってほしい所だけど」
「冗談じゃないわ。それじゃ咲良に追いつけないわよ。あいつの本気は私の頭でも追えないんだから」
初めて私の予測を裏切ったのが彼女だもの。誰にも聞かれないように結衣は囁く。
「ふーん。あの子の事、相当買ってるんだね」
「でも勝たなきゃ……」
「どうしてそんなに拘るんだい? 私、聞きたいな」
悪戯っぽく聴くが、沈黙で返された。二人の間にはスケールの大きい因縁があると見る。
シェイの入ったライフルバックを背負って、結衣はセーフティーから行ってしまう。
勝たなきゃ輝けない。だから勝ってあいつにも、あいつにばかり目を遣っていた奴らに認めさせてやる。
心で呟いた声を聞いたのはシェイだけで、たった一人の幻想の中で拳を結衣の背中に優しく添えた。
「さっ私達も行こうか。カルメ」
銃の名前を呼ぶと、また部長の悪い癖と部員たちが微笑みながら揶揄う。
けれどカルメは気づいてないのかどこかを眇めている。完全に上の空という奴だ。
「カルメってば。ほらぼさっとしない」
「え? あ、はい。マスター」
惚けた声でまた部員の笑いを誘う。いつものように苦笑いで返す。もしかしたら今日で最後かもと一抹の不安を抱いて真理は歩き出した。