めくら撃ちにヒット者の盾。何故かドローンに探知されない違反プレイが連発し、涼は完全に冷静さを失っていた。
「あの野郎っ!」
今にもセーフティーを飛び出そうだったが、そんなことをしても無駄なのは咲良が良く知っていた。
「待って先輩!」
「止めるな悠里! あんな卑怯な手使われて黙ってられるかよ!」
「迂闊です安土先輩。証拠がありません。さっき審判団に申し出ましたが、無意味でした」
「……クソッ! あいつらの眼は節穴かよ! クソがクソがクソが!」
拳をテーブルに叩きつけて悔しさを露わにする涼。
「ひとまず、どう戦うかを考えましょう」
「けどよ新井。反則技使う奴にどう立ち回るんだよ」
「それは……立ち回りとかでどうにか」
論理的に答えられず、先輩達は諦めムードを醸していた。
反則上等の敵に正攻法で戦っても勝てない。なんとか勝てる手立てを考えなくては——
「あの、私を出してくれませんか?」
まるで恐れを知らないように一人の少女が声を挙げた。
「片岡、君一人が変わって何が出来るんだ?」
たった一人、変わっただけで戦況が覆るなんてありえない。経験則からそう思えて口走ってしまった。
だが悠里の思考には電撃が走った。完全な盲点だった。
「……それだ」
「え?」
「先輩方、少し俺のわがままに付き合って貰えませんか」
「お前……何をやろうっていうんだ?」
「俺と咲良が出て、あいつらをぶっ潰すだけですよ」
ここで誰が出ようと状況は悪化する一方で、もはや涼には選択の余地すら与えられていない。
半分は自暴自棄。だからこそこの選択ができる。
「わかった。誰でもいい、咲良と交代だ」
「はぁ?! ちょっと待ってよ涼!」
セーフティーの後ろから先輩たちを押し退け、異議を唱えたのは奏だった。
「なんでそいつが出ることになるのよ……それで」
「仕方ないだろ」
「仕方ない? それで皆が納得すると思ってるの? ちゃんと説明してよ涼」
「相手は反則技を使ってくる敵だ。正攻法じゃ勝ち目がない。だから咲良を出す。どの道、勝算があるかも分からない。けどコンマ一でも、勝つ可能性が上がるなら」
「さっき出てたのは部で並々ならない努力をしてきた仲間でしょ?! それを裏切る気?」
「裏切ってなんかいない。次に繋ぐためには」
「裏切ってるわよ! 部にも顔を出さなかった奴を出そうとしてるのが何よりの証拠!」
「努力でどうにかならない事だってあるだろ……もう、私はそれで構わない……もう口を出さないでくれ」
奏は絶句した。突き離すように言った涼の言葉は、まるで今までの付き合いで認めてくれたことを全て否定するようなことだったからだ。
「……分かった。後は好きにして」
そう捨て台詞を吐いて奏は荷物を纏めて去った。
先輩達は騒然としていたが、黙る涼を見て閉口した。それからは試合開始まで、気まずい沈黙が支配した。