誰かに裏切られるのが怖い。
誰かを裏切りたくない。
だから誰かの期待には応えたくない。裏切られるのが怖くて、信じることができないから。
けどそれって誰かを裏切ることになってるんじゃないか。
でも仕方ないじゃない。裏切られるのが怖いんだもの。
奏さんや他の部員さん達が言っていたことは正しいけど、私には分からない。
じゃあどうすればいいの? 貴方達は私を裏切らないって誓ってくれるの?
分からない。分からないよ。
縮こまった部屋でまた逆戻り。
不甲斐ない自分はとても情けない奴だ。卑屈で勇気を出したことがバカバカしかった。
そうだよ。悠里君が認めて許してくれても、他の人は彼じゃない。
ほんと、馬鹿だな私。また236が、サバゲーが出来ると思ったのに、一人で舞い上がって躓いて。
頬を伝う大粒の涙を袖で拭う。
ライフルも明日には中古に出してしまおう。もうこの手に取ることはないのだから。
霞む視界の中で咲良は愛銃の空箱を押し入れから取ろうとした。
——ピロン。
スマホの通知音が鳴ったのはそんな頃だった。
明日、絶対来いよ——新井 悠里
悠里君からだった。励ましでも無ければ、無理強いした謝罪でもない。
絶対来い。まるで縛り付けるような呪いの言葉に朔良は歯を食いしばる。
人の気も知らないで、勝手に縛り付けて。
「もううんざりなのよ! 何もかも!」
一人、部屋で絶叫した。
元はと言えば彼がそうさせたのが原因なのだ。それなのに謝るでもなければ性懲りもなくまだ私を信じている。
逃げ出した腰抜けを彼はまだ信じ続けているのだ。
もううんざりだ。溜息を吐いて拳を床に叩きつけようとしたとき、扉のノックと母の嫋やかな声音が聴こえた。
「咲良ちゃん、今物凄く大きな声がしたけど……」
「ごめんなさい。ちょっといろいろあって」
母にまで気を遣わせてしまって、本当に私は情けない。
大きく深呼吸した咲良は心を落ち着けてベッドに身を預けた。
ひとしきり叫んで泣いて、心も満足したのか安らかだ。
……でもこれでいいのかな、と一筋の違和感が走る。
このまままた逃げてしまったら、悠里君の信頼に背くとになる。
人を裏切るのは嫌だと叫びながら行動は逆を行く。
冷静さを取り戻した思考が冷徹にそんな事実を言い聞かせてきた。
このままじゃ……きっとダメなんだ。
咲良は空箱を突き離して、愛銃をライフルバックへと詰め始めた。
「まだ信じてくれる人がいるんなら、行動してからでも遅くないはず」
粛々と一度に売り捌けなかった残りの装備をダッフルバックへ詰め込んだ。
覚悟を決めよう。どんな結果になっても受け止めよう。選択はそれからでも遅くはないはずだから、と。