帰り道が憂鬱で仕方なかった。
あの一騎打ちで初めて感じた興奮。咲良だからこそ先頭を任せたいという期待。それが同じ高校、同じクラスで再会して、最初は拒んでいたけど乗り越えようと必死に頑張った。
それなのに一歩踏み出した彼女への冷たい態度が腑に落ちない。
「なぁ、人になってもいいか?」
ラプアがそう声を掛けてきたのはポンと石を蹴った時だった。
無言で頷くと、銃は少し大人びた雰囲気の彼女は人となって艶やかな黒髪を後ろに払った。
「咲良の事で腹が立ってるんだろ?」
「別に……」
「昔から誤魔化すのが下手くそだよお前。話聞いてほしくてわざとやってるんじゃないかって思うくらい」
「リコは察しが良すぎて時々怖くなる。片岡さんの事だけど、彼女にじゃない。周りにだ」
火種の一つでも落ちたら簡単に爆発してしまいそうなほど不満はあった。
「一歩踏み出したのは片岡さんのはずなのに」
「……人間とは難義だ」
「難義?」
「必ずしも使える物を使わないということだ。部にいれば百人力だろうに」
「リコは容赦ないくらい合理的だな」
彼女がまだ銃であることを改めて思い知らされる。
「けど感情を優先し過ぎてる」
悠里の批判にラプアも静かに頷いた。
結局は仲良しが集まった部に過ぎないのではないか。EOS優勝や全国大会出場なんてことを口にはしていたけれど、その場のノリとか薄っぺらい体裁で取り繕っているだけで本心ではないんじゃないか。
けどあの部長に限ってはない話と、猜疑心を打ち消すように心の中で反芻した。
「なら悪あがきしてみたらどうだ? その咲良って奴と戦ったときみたいに」
「悪あがき?」
ラプアの言葉に首を傾げていた。
「得意だろ? 昔から、負けじと咄嗟に反撃して逆転に持ってく戦法」
「まぁそうだけどさ。どうするってんのさ」
「簡単だ。スマホ貸せ」
奪うようにラプアがスマホ取って、文字を打ち込む。
器用なその様にいつの間に覚えたんだと驚く悠里。そして返された時にはメッセージアプリの画面と送信済みの文字列が映し出されていた。
「『明日、絶対来いよ』っておい。これむしろ逆効果なんじゃ」
「悠里との約束は絶対に破れないよ」
「言い切るね」
「じゃなきゃ、今回のことで罪悪感なんて抱かない」
観察眼が怖いくらいに冴えてる。我が銃ながら、悠里は感心した。
賽は投げられた。どう転がって何が出るかは彼女次第か。
もどかしくも、待つことは慣れている。
ほうと一息をついて空を仰いだ。まだ茜色を残す紺に日が伸びたことを実感させられる。
「帰りにコーヒーでも飲んでいくか?」
「お前が働くっていうなら私は先に帰るぞ」
「まさか。さっきのお礼だよ。膠着を打ち破ってくれた」
「なら……行く」
少し迷ってからラプアはそう切り返して、二人は帰路を急いだ。