悠里の提案で四日の暇を置いてから久方ぶりに部室へ顔を出した咲良。
「あの、すいませんでした。今まで練習に参加しなくて」
開口一番に気まずそうな謝罪が聞こえると皆の手が止まった。
悠里との約束を半ば反故にした罪悪感で彼女の表情は暗い。心の迷いを知っている分、それをどうにかしたいと悠里は思い立ち、すかさず助け舟を出す。
「えっと片岡さんなんですけど、ちょっと事情があったみたいで参加できなかったんですよ」
「……ひとまず聞こうか、悠里」
涼に促されて咲良が陥ってたスランプを洗いざらい話す。
裏切られることへの抵抗。以前組んでいた相棒に突然解散宣言をされて深い傷を負っていたこと。
フラッシュバックで何も言えず、誰にも相談できずにいたこと。それを必死に克服してチームに貢献しようという姿勢を語った。
まだいくらでもやり直しが効く。納得して頷いている先輩方の反応に安堵した。
「……それってさ、結局は言い訳じゃないの?」
誰もが咲良に理解を示したかと思ったその時、冷たい言葉が響いた。
その方へ見るや、作業服姿の奏が睨めつけるような視線で咲良を見ていた。
「ちょっと待ってください先輩」
「ちょっと待っても何もないでしょ。涼や他の部員たちがEOSの予選に向けて必死に練習してる中、揺さぶられたら不貞腐れて逃げた訳じゃない。仮に実力があったとしても、その精神状態で戦えるの? 無理でしょうね」
「だからこれから」
「それに強いからって言っても、肝心なときに逃げ出されたら意味ないじゃない」
「だけど、絶対に片岡さんの力が必要に」
「強ければ特別扱い。それって違くない新井。周りがそんなんで、果たして片岡が変われるかしらね」
言い訳という言葉が至言だった。トラウマがあるから、他とは違うから。そんなのは約束を反故にする理由になんてならない。
それにゲームで活躍しようと必死に努力してきた人達への示しがつかない。
奏の言う事は正論だ。悠里は言葉を失い目を彷徨わせる。
咲良は俯いて今にも泣き出しそうに震えていた。
けれど誰だってトラウマを望んで手にしてしまったわけではない。せっかく一歩を踏み出そうとしたことも努力。無下にされたことに腹が立った。
感情だけをぶつける奏に口が開きかけたその時、咲良は部室を飛び出していった。
「お、おい片岡さん!」
逃げ出した咲良の背中を悠里は追おうとした。
「ちょい待て悠里」
「止めないでください先輩」
涼の制止に思わず愁眉を寄せた。
「咲良君の望んだ通りにしてやれ」
「で、でもあいつは」
「実力は目の前で見てる。けど、奏が言う事も一理ある」
「……クソっ!」
叩きつけた拳が赤くなり、自分の無力さに腹立たしさが湧く。
だがどうすることもできないと悟る。そしてこの悲劇を作り上げたのは他ならない自分であることを呪った。