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魂宿るエアソフトガンは相棒になりたい
魂宿るエアソフトガンは相棒になりたい
宵更カシ
現実世界ラブコメ
2024年11月10日
公開日
13.7万字
連載中
サバゲー×ラブコメ――己の存在を賭けて戦え

進化型サバイバルゲーム『.236』が全世界で一大ムーブメントを巻き起こし、未成年者でも安心安全にサバイバルゲームをプレイすることができるようになった現代。

魂宿るエアソフトガン『ドゥーガルガン』の『ラプア』を持つ『新井 悠里』は死なない戦場で戦った『片岡 咲良』と奇しくも同じ高校に入学する。

悠里は二人で236部に入部――と思いきや、「もうやめた」と口にして咲良は誘いを拒んでしまう。

謎めく理由を探るため悠里は銃の声を聞き彼女を追いかけるのだが……?!



第1話

 女々しいと馬鹿にされたことがサバゲーを始めたきっかけだった。


 生まれつき容姿が女っぽくて近所の人たちからはよく間違われていたし、小学校ではそれを揶揄われたりいじめられたりした。


 だから少しでも自分を強く見せたい、サバイバルゲームがそれを叶えてくれると思い、俺は強く引き込まれた。


 死なない殺し合い。年端もいかない人達から見たら、当たれば痛いある種の暴力的なスポーツは馬鹿にしてくる奴らを畏怖させるのに十分だった。


 でもいつの間にか吹っ飛んでいて、本気で撃ち合う楽しさとスリル、そして遠くの敵を一撃で倒した爽快感に俺は浸ってしまった。


 そして俺、『新井 悠里』は、魂宿るエアソフトガンと天才少女に出会い、存在を賭けた本当の《サバイバル》ゲームに興じていく。


 望まない結末に向かって――




ゲームルール:フラッグ戦——二チームに分かれて拠点にあるフラッグを取れば勝利


 ベニヤ板と建築足場で組まれた櫓が点在する、とある森の中。純白や緑褐色の小さな球体が飛び交うここで、端整で麗しい美少女のような少年『新井 悠里』は草に擬態していた。


「……暑い」


 漏れた一言はサバゲーに興じるプレイヤー達のエアガンの喧騒で掻き消される。


 三月も終盤。春先ぽかぽか陽気の日に、通気性の悪い迷彩服と擬態用のギリースーツを着込めば当然ながらに暑い。


 それ以上にフィールドは熱いのだが、


「二方向から抜かれた! 七番バリケと一番バリケ注意! フラッグ付近に来るぞ!」


 前線から銃声に負けじと叫ぶ声音。


「リコ、出番だとさ」


 手を伸ばした先、撫でるように優しく語りかけると銃床を顔に寄せる。


 慣れ親しんだこの硬さと幾度なく眼を通したスコープの十字。引いたボルトとトリガーに指を這わせる感覚。


「分かってる。動きを止めたら、撃ち抜く」


 悠里の声音は独り言のように空を切る。


 七番と記されたバリケード辺りに視線を移すと、前線を巧みに抜けてきた敵が味方の横っ腹を盛大に突く姿があった。


 深呼吸――そしてトリガ。


「命中する」


 俺達なら絶対に外さないという絶対的な自信。


 弾丸は柔らかい新緑の芽を裂いて45メートルの距離を走り抜けて頭に着弾。


「ヒット! ナイスショット!」


 面を喰らったように顔を顰めてヒットコール。威力は大分落ちていたが頭への直撃は誰でも驚く。


 その後は見事と言わんばかりの讃える笑顔になり、どことも知らない敵へ賛辞を送っていた。


 思わず悠里もフッと口元を綻ばせる。


「どう? 今のお兄ちゃんカッコいい?」


 脳内に届く呆れ声。


 銃口を突きつけ合っていても良いプレイは互いに称え合う。悠里も小さくガッツポーズをしていた。


 最近では競技性を高くしたエアソフト競技も広まっているが、勝敗を気にしないこの雰囲気は息抜きに丁度良くて好きだ。


「気を抜くのは早いか……そうだよなリコ。あと一人」


 味方が抜かれたもう一方、ライフルを指向させ


「距離にして50メートル」


 玩具として売られている一般的なエアガンの最大射程は約60メートル……50ならギリギリ狙える。


 黒の軽量装備に身を包んだ敵を捉えた瞬間、迷わずトリガー。


 奴はこちらに気がついていない。発射した瞬間に勝負は見える。


 しかし予想は外れ、頭を僅かに反らすと飛んできた弾丸が寸前で空を切る。


「マジかよっ」


 無駄のない最小の動き。まるで弾道を完璧に把握されていたような避け方だ。


 予想だにしない動きに悠里は小声で驚嘆した。


「大丈夫だリコ。次は外さない」


 位置は露呈していないし、まだ撃てる。ライフルにそう語りかけて発砲。


 だが命中コースだったその弾丸も虚しく藪の中へと消え失せていった。


 眼の前の光景に思わずスコープのレンズから利き目を外した。


「外れる……照準は完璧なのに」


 可憐に弾丸を翻す靭やかな肉体は美しいとさえ思える。


 こんな敵と俺は渡り合えるのか。


 迂闊にスコープから目を離すな――劈くような銃の怒号に揺さぶられ、悠里は心を落ち着かせる。


「そうだ落ち着け」


 すっと乱れた呼吸を直して視線をスコープへ。


 しかし照準が追いつかない。据えられるのはごく一瞬。全身漆黒の装備が蜃気楼のように現れては失せていく。


 この敏捷性。敵はガチムチの筋肉ダルマだ絶対にそうだ。


「来る!」


 そんなボケとは裏腹にサポートは任せろと、悠里の合図に銃は答えた。


 藪から飛び出してバリケードの背後へ回り込んですかさず撃鉄。


 その弾丸も軽快なステップとしなやかな身体で翻されてさらに距離が詰まる。


「援護する」


 フラッグ付近の味方の二人が交戦に気が付き加勢する。


 これで三対一。圧倒的な優勢に傾き、味方に前衛を任せられたことで悠里もほっと一息ついたが、


「「ヒット!」」


 秒殺。安心が一瞬で緊迫に変わる。


 敵の動きを探りながら攻撃のチャンスを伺うが、その動きにはまるで隙がない。


 あんな敵に勝てるのか俺……いや、例え勝算が低かったとしても……


「足掻いてやる」


 何をする気だ。そんな問い掛けにハンドガンをチラリと見遣ってからはにかんで、


「なーに、ちょっとした賭けだ。リコ、バレル交換」


 そう、ちょっとした賭けだ。突破した敵は奴とさっきダウンさせたもう一人だけだ。前線がまだ機能しているということはここで食い止めればフラッグを守り切れる。


 手際よく銃身を交換。内径がタイトな6.01ミリのバレルをはめ込み、予備の0.2グラムBB弾が装填された弾倉に換装する。


 これで弾の足が幾分か稼げる。弾丸を見切って避けてくる敵なんて想定などしていなかったが、せめて足掻くぐらいはさせてもらう。


「交換完了。さぁてリコ、行くよ!」


 悠里は覚悟を決めてバリケードから身を晒す。


 あの敵がいるバリケードへ一気に駆け出すと、索敵の為に一瞬曝け出した頭が見えた。


 撃発。銃本体の調整が甘く、弾道は不安定だが確実に命中コースへは乗っていた。


 そして予測していたように避けられてライフルの銃口がこちらを据える。狙いは胴体。避けられるスペースは——


「予想通りだ!」


 瞬間、悠里は背中の方へ飛び退り射撃態勢を崩した。ライフルを抱えながら尻が地面を擦る。


 敵も想定外だったようでおっかなびっくりに肩を弾ませ、驚嘆を上げる。


「そんな姿勢からっ?!」


 腰のホルスターからハンドガンに抜く。


 躓いたのでない。意図的に体勢を崩して動揺させるだけだ。


 這うような悠里へ能動的に銃口を合わせようとするがもう遅い。初弾を装填して狙いも定めずに撃発する。


——ポス。


 至近距離で放たれた二つの射撃は着弾がほぼ同時に鳴った。


「「ヒット」」


 二人の声も重なった。両者ヒットの相討ち。サバゲーではよくある落ちだ。


 滑空しながらの射撃など対応できるはずもないのに、彼女の本能射撃は追随してきた。人間の域を逸したまさに神業に等しい。


 清々しさ半分、悔しさ半分の気持ちで立ち上がると、悠里は感嘆の深い息を漏らしてセーフティーエリアへと戻っていった。



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