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第13話 異能鬼ごっこ②

「グラムダルは……どうにかして逃げたみたいだな」


 目を開けると、グラムダルがいつも座っている安楽椅子は、既にもぬけの殻であった。さっきの球体関節人形も消えている。なるほど。眷属を操って自分を運ばせたか。


「手近な人形は、っと」


 タンスの上にある、小ぶりな球体関節人形を手に取る。これはグラムダルの私物だ。これを監視カメラ代わりにしているはず。本人は隠せているつもりだろうが、バレバレなので利用させてもらおう。


「グラムダルも甘いな。手の内を明かすような真似をして」


 当然ながら、俺の動きを監視するために、支配できる人形のストックは多く持っているはずだ。


「【視覚共有】発動」


 グラムダルは案の定、この人形で俺を監視していた。だが、それを逆にたどれば、グラムダル本体が今見ている光景も分かる。


「なるほど。南端のプールサイドを走っているな」


 移動している光景とすぐにリンクできた。


「さて、久々に本気で走るか。【視覚共有】解除」


 左目とリンクさせた視界は消え、両目とも目の前の光景が映るようになった。


 途端に俺は、両足に魔力を集束させ、自分自身を弾き飛ばした。勢いが減衰する頃にもう一度魔力塊でブーストする。それを繰り返し、俺は最速で球体関節人形を視界に捉えた。こんなのは基本的な魔力操作だが、極めるとこれが案外侮れない。かなり重宝している。


「見いつけた!」


 俺は球体関節人形を追い越し、振り向く。だが。


「なっ! 目ん玉持って走ってやがる!」


 球体関節人形が抱えていたのは、人形の目玉パーツだった。身体の一部を取り外すとは、グラムダルのやつ、人形としての利点を最大限活かしてきたか。俺のコンタクトレンズに視覚共有の異能が込められているのは、百も承知というわけだ。


「まぁ当然、これくらいのデコイは使ってくるか」


 面白くなってきた。


「とはいえ探知系の魔術は得意じゃないし、蔵を使うのも大人げないよな」


 これでも今年で17だが、奴らは皆年下(に見える)なので、多少の手加減は必要だろう。


 などと思っていると、緑色のガスが右から流れ込んできた。


「色変えか!」


 目眩ましに使ったつもりだろうが、却って近くにいることを悟られるだけだ。俺はガスの流れてきた方に向かって走る。だが、霧を晴らしても、シェラの姿は見当たらなかった。


「気流操作の方も使っているのか」


 最近、シェラは気流操作の異能を譲り受けている。ヌバタマ商会からの救出者の中に、異能を持て余している人がいたので、蔵に能力を封じ込めてシェラに渡した。その時作ったのは、腕輪型の蔵。目立たない大きさだから、追跡できない。


 おそらく遠隔で気流を操り、位置を偽装したのだろう。


「これ、一人も捕まんないかもな」


 開始既に5分が経過している。落ち着いて策を練ろう。


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