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第10話 船旅開始

「【飛竜の魔女】に会いに行くぞ」


 俺は皆に宣言した。


「あれって都市伝説じゃなかったの?」


 シェラが指摘するが、実は違う。


 中東で幅を利かせていた反政府組織とテロ組織がまとめて一掃され、新たな独裁国家ができたのは記憶に新しい。その建国の立役者と言われているのが、【飛竜の魔女】カサンドラ・ステファノプロスだ。なんでも、ドラゴンだかワイバーンだかに乗っている映像が出回っているらしく、そう呼ばれているようだ。


「そこらへんはカノンが詳しいだろう?」


「うん、まぁね」


 なんだか歯切れが悪そうだ。まぁカノンとも因縁深いのは、誰の目から見ても明らかだからな。


「知っての通り、私はドラゴンと人間のハーフ。ドラゴンの父と、人間の母を持つ。その人間の母ってのが、【飛竜の魔女】なの」


 俺は事前に聞いていたが、シェラとグラムダルは驚き固まっている。いや、グラムダルはもともと固まっているようなものだが。


「カノンちゃんのお母さん、革命家だったんだ」


 シェラは何だか感心している。


「それより恭二さん。この件が我々の目的とどう関連するのです? まさかと思いますが、メンバーの過去の因縁を清算して回っているわけではないですよね?」


 グラムダルンの指摘はもっともだ。確かに、前回はシェラ。今回はカノンと、メンバーの過去のトラウマを消すために動いているように見えてしまうな。


「もちろん違う。【飛竜の魔女】をターゲットにしたのは、奴の背後に【異界取引機構】と【純粋知性研究所】がいるからだ」


「秘匿協会三大支部のうちの二つですか」


「そうだ。おまけに魔術協会トップのヘルメス・アイレスフォードにも目を付けられている。全方面に喧嘩を売る計画は、もうすぐ完了するわけだ」


「相変わらず恐れ知らずだねぇ、恭二きゅん。その調子だよ!」


 天空落書きしてみせたシェラほどではないがな。


「ありがとう、シェラ。移動手段についてだが、この海上宮殿をナブー共和国近海まで移動させる。しばらくは宮殿に乗っての船旅だな」


「もっと効率的な移動法はないのですか? 蔵を縮小してカノンさんに運んでもらうとか」


「いや、私もさすがに太平洋から紅海までは飛べないかな……」


 カノンは申し訳なさそうに手を合わせる。まぁ普通にそうだよな。


「カノンちゃんの負担を増やさないでよ、世話の焼けるお人形だねぇ」


「うるさい、能無し落書き娘。私は恭二さんの負担を考慮しただけだ」


 グラムダルはどうやら、蔵の維持で俺が消耗することを心配してくれていたらしい。


「ありがとう、グラムダル。だが俺は大丈夫だ。蔵は自然界の魔力を吸って自律的に稼働させられる。よほどの高速航行でもしないかぎり、俺は殆ど力を使わずに済む」


「そうなのですね、この宮殿に匿っている異能力者も大勢いますし、心配だったのですが、杞憂でしたか」


 ヌバタマ商会から救出した異能力者は、各部屋に収容している。広めの宮殿を造っておいたのが正解だったな。


「じゃあじゃあ、皆でクルージングを楽しもうか!」


 シェラはもうはしゃいでいる。


「だな。遊びに行くんじゃないけどな」


 たまにはゆっくり旅を楽しむのもいいだろう。


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