『見たよー、恭二くん。すごいの撮れたね』
電話越しに、若い女性の興奮気味の声がする。名乗るのも忘れるほどとは、大した熱狂ぶりだ。この人は杏里・ヴェルクマイスター。都市伝説雑誌『アトラハシース』の編集者だ。俺が神秘公開活動の一環として、本物の超常現象動画を送りまくっていたので、彼女との伝手ができた。もちろん、杏里は異能が実在することなど知らない、ただの一般人だ。
「撮れたね、とは?」
『もう、とぼけちゃって。どういうわけか昨日、謎のアクション動画が不特定多数のスマホに配信された。主に女子小中学生のいる家庭で多く見られた事象だそうね。でもあれ、演技じゃなくて本物の戦闘でしょ?』
「そうですね。あれは異能力者を違法に収容していた悪徳研究所を、壊滅させた際の動画です。呪いの人形の権能を使って配信しました。信じてないでしょうけど」
『そうね。私は信じないわ。今どき、CG加工でなんでも再現できちゃうしね。ただ、それじゃあ面白い記事にはならない。背景を教えて。君の妄想でいいから』
俺は、戦闘に至るまでの経緯を事細かに話した。神秘公開同盟のことも全て明かした。どうせ都市伝説やオカルト話の類として切り捨てられる。万が一そうならなかったとしても、秘匿協会が隠蔽する。
だが、気付く奴は気付く。弱小雑誌でも、情報を拡散するにはうってつけだ。
『でもあの動画に、多くの行方不明者が映っていたとの情報もある。君、ただの都市伝説コレクターじゃないでしょ? 本当は何者なの?』
「だから言っているでしょう? 俺は【蔵】という術式を受け継ぐ天離家の非嫡男で……」
『そういうのいいから』
本当のことしか言ってないんだけどな。はてさてどうやって信じてもらおうか?
『それは表の顔でしょ?』
存外に勘がいいようだ。俺が異能一族の一員であることは置いといて、その先を知りたいというわけか。
「それと神秘公開同盟の首魁で……」
『それもさっき聞いた。じゃなくて、君は何者なのか訊いてる。君の本当の狙いは何? 何のために戦ってるの?』
結構踏み込んでくるな。意外と優秀な編集者なのかもしれない。
「そこからは無料ではお教えできませんねぇ。プラチナプランに入会してもらわないと。今ならなんと! 月額5000万円で情報聞き放題!」
『あーもう! 核心に迫るといつも茶化す。いいですよ。私は私で調べますぅ』
杏里は遂に怒ったのか、ぶつりと通話を切った。