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第7話 聖火の魔術師

 どうやら本気を出さないとマズそうだな。


 そう覚悟を決めた次の瞬間には、尖塔は焼け落ちていた。おかしいだろ。いくらなんでも火が着いてから灰になるまでのスピードが速すぎる。


 間違いない。【聖火の魔術師】が来ている。


「久しいね。天離恭二。天才蔵造りの君が、随分と落ちぶれたものだ。こんな悪戯に手を染めるなんてね」


 白装束の金髪男が俺を見下ろす。右手の短杖には、白炎が纏わりついていた。


「秘匿協会第三位階。ヘルメス・アイレスフォード……!」


「覚えていてくれたんだね。もっとも、君程度に記憶されたところで嬉しくもなんともないが」


「何しに来た? 帰ってくれないかな」


「世間話だけしに来たとでも思うのかい?」


 ヘルメスは、全裸に剥かれたリアを担いでいた。さっきまで宙に浮いていたはずだ。いつの間に動いたんだ?


「そうかい。口封じしに来たか」


「封じる必要はない。ヌバタマ商会などという下部組織は、『もともと存在しなかった』のだから」


「みんな、こっちだ!」


 俺が叫ぶと同時に、海底から火柱が上がった。俺たち3人は、辛うじて蔵に滑り込む。ヌバタマ商会のアジトは、跡形もなく消え去っていた。いくらなんでも火力が高すぎる。これが西洋魔術界トップの力か。


「【蔵出し・解除】」


 俺は蔵の召喚を解き、海上宮殿に転送させた。


「危なかったな」


「あれだけの大物を呼び寄せるとは、大した活躍でしたね」


 グラムダルが駆け寄り、そう言う。だがやはり、間接のない人形の脚ではうまく歩けず、転んだ。


「何者なの? 恭二はあの男と知り合いみたいだけど」


「秘匿協会の幹部だ」


 ヌバタマ商会は、誘拐した異能力者を上位組織の魔術協会やら異界取引機構やらに上納している。秘匿協会はそのさらに上の元締め組織。西洋魔術、東洋魔術、超能力、その他の異能すべての秘匿を是とする組織だ。


「大物が釣れたが、今の俺らじゃ太刀打ちできないし、戦う必要もない。グラムダル、視覚共有はできたな?」


「もちろん、恭二さんの見た光景は、私の眷属の人形を中継して全世界に配信されました。連中も慌てているのでしょう」


 コンタクトレンズには視覚共有の異能も仕込んであった。これも以前、要らないので引き取ってくれと言われ、譲り受けた異能だ。


「上出来だな。これで俺たちの悲願、神秘の公開に近づいた」


 俺は天を仰ぎ、青空を睨み付ける。


「空のふりをしてるあの天蓋を砕く日も、そう遠くない!」


 偽りと隠蔽だらけのこの世に、自由と公正を取り戻す。それこそが、この神秘公開同盟の掲げる大義だ。


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