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第5話 魅了の異能

「着いたぞ」


 海底施設の壁までたどり着いた。何らかの合金製のようだ。ここを突き破ってさっさと侵入するか。


「カノン、頼んだ」


「了解」


 カノンは右腕のみをドラゴン化させ、剛爪で以て壁を破壊した。


「さて、シェラ。出番だ」


「う、うん」


 若干尻込みしながらも、シェラは色変えの能力を発動させた。今回の変更対象は空気。ガスでも撒いたかのように、黒い煙が辺りに立ち込めていく。


「よし。これでいつでも目眩ましはできるな! 突入!」


 号令と共に俺たちは駆け出した。シェラは、たちどころに空気を黒く染めていく。これで敵も思うように迎撃できないようだ。


「おかしいな。滅茶苦茶に銃でも撃ってきそうなものだが」


「ここの所長が出張ってくるまで、何もしないつもりなのかも」


 シェラは周りを見渡して言う。所長ってことは、あいつか。事前情報で、ここの所長は【魅了】の異能の持ち主だと分かっている。


「【動くな。シェラ・アルタイル】」


「ひっ、」


 シェラは途端に棒立ちになり、恐怖に目を見開く。本当に動けないようだ。


「このリア様の目を盗んで脱走した悪い子には、お仕置きが必要ね」


 色変えの能力が解かれ、白衣の女研究者が姿を現した。歪んだ笑みを浮かべるそいつは、嗜虐趣味があることが見ただけで分かった。


「いや、やめて……」


「大丈夫だ、シェラ。俺がそばにいる。落ち着いて、作戦通りに行こう」


「恭二……」


 いつもの「きゅん」付けを忘れてしまっている。よほどトラウマなんだな。


「ここの異能力者は貴重な資源だ。能力開発して人間兵器に育てるもよし、異界の悪魔への生け贄に捧げるもよしと、有効活用するためのな」


 リアとかいう女は、そんなクソ傲慢な思想を恥ずかしげもなく口にした。


「もっとも、色変えなんていうクズ能力しか持っていないお前は、解剖する予定だったのだがな。臓器を抜き取り魔法薬の原料として提供すれば、魔術協会にも恩を売れた!」


 どうしようもない奴だな。異能は大いに活用すべきだが、こいつは人間自体を資材かなにかと勘違いしているようだ。


「リアとかいったか? 俺の仲間にもう一回手を出したら、さすがに殺すぞ?」


「やってみな。【自害しろ】」


【魅了】の異能が発動したようだ。だがもちろん、俺は自殺なんてしない。


「なんだ? なぜ効かない?」


「俺の秘奥義の一つ、【忌魔鏡】。あらゆる異能を写し取り、奪い取る。もうお前の【魅了】の力は俺のものだ」


「え? 恭二。そんな奥の手隠してたの?」


 カノンが驚いたように目を丸くする。そりゃあ奥の手なんだから、仲間にも明かさないだろ。ちなみに【忌魔鏡】は、俺のコンタクトレンズを【蔵】に加工したものだ。


「なんにせよ、終わりだ。リア。【全裸土下座しろ】」


「承知しました!」


「ふん。勝ったな」


 全裸で頭を床にこすりつけるリアに腰掛け、俺は勝利宣言してみせた。




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