「ここがヌバタマ商会のアジトね」
カノンの背中に皆で乗り、上空から見下ろす。
「わざわざ海底に拠点を置くなんて、大それてるよな」
以前、ヌバタマ商会の末端の人間に念話を繋ぎ、脳内を読み取ったところ場所が明らかになった。商会の連中は、拐った異能力者を海底の施設に監禁しているらしい。
「建物を破壊しても溺れるから、逃げられないってわけか」
「悪趣味な連中だねぇ、恭二きゅん! 突入に関しては頼んだ!」
シェラは明るく振る舞っているが、どうも無理してるようだ。やはり、商会に囚われていた頃のことがフラッシュバックするのだろうか。全く。シェラのような純朴な少女にトラウマを植え付けるなんて、不埒千万だ。
「頼まれた! 【蔵出し】―【尖塔】」
俺はタワー状の蔵を召喚し、海底の建物に接地させた。
「よし、蔵の中に入れ! 階段で降りるぞ!」
カノンは尖塔に着陸して人間形態に戻り、皆で中の階段を降った。
「蔵の中ってこういう風になってるのね。もっとダークマター的な何かが充満してるのかと思った」
「蔵は基本普通の建物と同じ構造だ。素材に特殊な術式と魔力が埋め込んであるだけでな。この【尖塔】の場合は、魔力による強度アップというシンプルな効果だ」
「へぇ、にしても珍しい技術ですね」
「島国だからな。他にも珍奇な術式はたくさんある。グラムダルに訊けば色々教えてくれるだろうよ」
ちなみにグラムダルは海上宮殿でお留守番だ。人形である以上、俊敏な動きはできないので仕方がない。
「前から思ってたけど、なんでグラムダルちゃんって各国の術式に詳しいの?」
「さぁな。呪いの人形の供養場で奴をスカウトしたんだが、出自に関しては教えてくれないんだよ。詮索はよそうと思っているんだ」
「なんか曰くありげだね」
「だな。俺も祟られそうだから訊きたくない」
どうもフランス人形は目が怖くて苦手だ。
「うわっ、女子にそんなこと言う? グラムダルちゃん悲しむよ?」
「いや、でもリアルな人形って不気味じゃん」
それに、あれを女子と呼んでいいのか疑問は残る。
「まぁここだけの話にしておくけど。本人を前にそんな態度取ったらダメだよ?」
カノンはデリカシーにうるさい。そういう女子の心の機微に疎い俺にとっては、学ぶことばかりだ。